第18章 欲
「鼻噛んだら痛いでしょーが。つーか、何で鼻?」
クスクスと聞こえる笑い声。
俺は鼻の頭を擦りながら、空いた手で朱里ちゃんの鼻を摘まんだ。
「だって、」
「だって、何?」
「坂田さん、余裕綽々、だから」
そう見えてる?
さっき、銀さん焦ってたよ?
そのまま朱里ちゃんに、食べられちゃうんじゃないかって。
「今後、鼻は駄目だからな」
「……はい」
「……余裕なんてねェよ。あんなことされたら、銀さんだって、ドキドキするし。力業、使いたくねェだけ」
「ごめんらひゃい」
素直に謝ったから、摘まんだ鼻を開放してやる。
ちょっと赤くなってるけど、そこは勘弁な。
「まぁ、いっぱいチューしたし?俺は得したけど?」
「………」
「朱里ちゃんは?」
「………」
「素直に言ってみ?」
今更、そんな顔すんな。
狡ィじゃねーか。
いつも誘うだけ誘って。
誘っておいて、顔、紅くして。
恥じらって、止めて。
「……もっと」
なのに、今日は。
あの夜みたいに、蕩けた顔で。
「欲しい」
可愛くおねだりできちゃうんだ。
オムライスより、欲しいって。
食べたいって言うんだ。
焦らして、意地悪したいけど。
コレは無理だわ。
こっちが堪えられないわ。
「朱里ちゃんからしてくれるなら、好きなだけやるよ」
それでも、素直に差し出さないのは。
その言葉の意味を、実感したいから。
さっきみたいに軽く触れるだけじゃ、物足りない。
吐息も言葉も飲み込むみたいな。
長くて甘いヤツを頼むわ。