第18章 欲
「それじゃあ、オムライス、作りますか」
俺の掛け声に目をキラキラさせて。
見えない尻尾を振って寄ってくる。
朱里ちゃん、前世は犬だろ?
だから頭を撫でたくなるのか?
「チキンライスを作る間に、卵の用意して」
「はーい」
冷蔵庫から出した卵を割る姿。
手際のよさを眺めていると、時折、視線がぶつかる。
「朱里ちゃん、俺のこと見すぎ」
俺も、見てるけどね。
気付かれない程度に、見てるけどね。
結構、恥ずかしいよ。
その視線は。
交わさないよ?
受け止めるよ?
「あーもー、こっち来なさい」
フライパン振ってるから。
そっちが寄ってこい。
数歩先の距離を縮めて。
「あんまり可愛い動き、しないよーに」
脳天に口付けると、卵をかき混ぜる手が止まった。
「坂田さん」
「ん?」
「……キス、してもいいですか?」
「駄目です」
「………」
悲しそうな顔しても。
駄目なものは駄目です。
何故、拒んだかというと。
「俺からするから、駄目」
ちゅっと頬に口付けて。
それから、唇に。
首から上って約束。
守ってるからね、俺。
「続きは、また後でな」
俺が『欲しい』と。
思ってくれる第一歩。
空腹と情欲。
たぶん、コレ。
紙一重だと思うよ?
現に、俺がそうだったから。