第18章 欲
「頭を上げとくれ。あたしゃ、コイツの母親じゃないんだ。許すも何も、ありゃしないさ」
カウンターにお茶を出して。
ババァは、優しい口調で言った。
「何かされたら、言っとくれ。コイツのところには、手の掛かるガキも二人居る。全部引っ括めて世話するには、限界もあるだろうさ。いつでも力になるから」
「ありがとうございます、お登勢さん……嬉しいです……お母さんができたみたい」
「そりゃ、やめとくれ。あくまで、傍観者だよ」
「はい」
「……ところで銀時、今月の家賃はどうなってんだい?」
今、それ言う?
「ちょ、待て、ババァ。朱里ちゃんの前で言うな」
「あんたの駄目さ加減を、朱里に聞かせてやってんのさ。考え直せって」
「マジ、やめてくんない?」
「それでも好いたって言ってくれてんだろ?あんた、果報者じゃないか」
「ああ……ちゃんと紹介できて良かったわ」
「……可愛い娘ができて、あたしゃ幸せ者だよ。あんたみたいな男にだけは、嫁に出さないけどね」
「さっきは、傍観者って言っただろーが」
「傍観者でも、道を正すことはできるからね」
「お二人とも、朱里様が困ってますよ」
たまの声で我に返る。
朱里ちゃんは眉根を下げて、俺とバァさんを交互に見た。
「悪ィな、喧嘩じゃねェ。いつものこった」
左手で朱里ちゃんの頭を撫でる。
それを見ていたババァが、驚いた顔をしてから笑った。
「何だい、あたしが心配することないじゃないか。あんたのそんな顔、初めて見たよ」
こっちも初めて見たよ。
あんたの、そんな嬉しそうな顔。
「今後もよろしく頼むわ」
店先まで見送られて。
俺と朱里ちゃんは、万事屋へと戻る。
「素敵な方、ですね」
この町で、そうは居ない人情派。
ババァも朱里ちゃんのこと、気に入ったと思うよ?