第18章 欲
「 朱里ちゃん。俺の、彼女」
カウンターの向こうに居るババァと。
対峙した、俺と朱里ちゃん。
天井に向けて吐き出す紫煙で、視界が霞む。
オイ、ババァ、毒吐いてるみてェだぞ。
「立ち話も何だ、座ったらどうだい?」
俺が椅子を引き。
『失礼します』と頭を下げてから、朱里ちゃんが座る。
その横に、俺も腰掛けた。
「朱里って言ったね。あんた、こんな甲斐性無しと一緒になって、いいのかい?」
ババァ、余計なこと言うなァァァ。
「昼はパチンコ、夜は飲んだくれて……仕事もせず、家賃も払わず、毎日毎日フラフラしてる男だよ?苦労するのは、目に見えてる」
紹介するだけのつもりが、違う方向に行ってるぅぅぅ。
「誰も咎めやしないよ、やめときな。今なら間に合うよ、ほら、アレ」
アレって何だ。
「お登勢様、クーリングオフです」
「そうそう、それ。まだ返品可能なんだろ?」
俺を何処に返品するつもりィィィ?
「あんた、別嬪さんなんだから、こんな男に恋慕しなくても、人生棒に振らなくても、いいんじゃないのかい?」
人生棒に振るって、俺、どんだけだよ。
「………それでも、いいです」
少しの間があって。
口を開いた朱里ちゃんは。
「私が、坂田さんと……居たいんです」
俺に視線を投げてから、ババァに向けて姿勢を正して。
「坂田さんとのお付き合い、許していただけないでしょうか?」
そう言って、頭を下げた。
アレ?
結婚の許しを得るために、男が女の家で親に言うみたいな台詞。
どうして、朱里ちゃんがババァに言ってんの?
許しを乞う必要なんて、ないからァァァ。