第18章 欲
再び、手を繋いで。
今度は万事屋までの道を歩く。
俺の手には、スーパーの袋。
朱里ちゃんの手には、キャリーバッグ。
かぶき町に、灯が点る頃合い。
「夕飯前に、挨拶行くか」
俺の声に、背筋を伸ばした朱里ちゃんは。
「緊張、します……」
そう言って、俺の手を強く握った。
「世話になってるバァさんなんだ。万事屋の大家で……俺の家族みてェな人」
「……大事な方、なんですね」
「まぁな……俺に生きる切っ掛け、くれた人」
「生きる、切っ掛け?」
「そうだな……今度、ちゃんと話すよ」
「はい」
「少しずつ、俺のこと」
「はい」
「少しずつ、教えてくれ」
「はい」
階段の前で、名残惜しく離れた手。
右手にスーパーの袋。
左手にキャリーバッグ。
先を歩く朱里ちゃんが玄関を開けて。
「ただいま」
ごく自然に言った。
「おかえり」
俺はそう言って、空いた左手で朱里ちゃんの頭を撫でる。
「安心する……坂田さんの手」
目を細める様は、懐いた猫みてェだ。
「坂田さん、大好きです」
不意打ちの告白に、俺は手を止めて。
「ば、ちょ、大人をからかうんじゃありません」
顔を背ける。
「顔、紅いです」
そりゃそうだ。
そんな台詞、言われ慣れてねェから。