第16章 糸
背中に腕を回された状態で。
丁度良い高さの、額に口づける。
避けるように、顔を俺の首筋に埋めて。
その鼻先が肌を擽る。
それだと。
耳ががら空きですよ、お嬢さん。
「今更、照れてんの?」
わざと耳元で囁けば。
「だって……」
「ん?」
「こうなるって、思わなかった…から」
「こうなるって?」
「…………こ……………恋、仲……?」
何で疑問系?
『欲しい』とか。
『好き』とか。
聞いてて恥ずかしい言葉は、はっきり言うくせに。
俺が聞きたい台詞は、オブラートに包まれてる。
「さっき、なったよな?」
耳朶を軽く舐めて。
もう一度、回答を促せば。
「っ……なり、ました」
俺好みの反応が返ってきた。
そのまま、食んで。
軽く噛む。
「…ん……ぁ…」
耳だけで、こんな可愛い声出しちゃうんだから。
この先、もっと、良い声が出るんだろうなァ。
「坂田、さ、ん……っ」
待てと、俺の唇を掌で制して。
乱れ始めた呼吸を整えて。
「…ッ、お風呂、入ってない、から」
「………」
「まだ、駄目、です」
その言葉で腕をほどいて。
「じゃ、これで終いにするわ」
頬に口づけた。
拍子抜けした表情を浮かべたの朱里ちゃんは。
それから不安げな目をして。
「ど、して…?」
小さく漏らす。
表情が豊かで、見てて飽きない。
「無理しなくていい」
腹が満たされる前。
飢えたケダモノが欲しかったのは、その躯。
満腹になって、それから『心』が満たされたら。
『躯』は、いつでもいいと思ったんだわ。
「……朱里ちゃんが、したくなるまで待つことにしたの、銀さん。だから、今はしない。朱里ちゃんが、俺を欲しくて欲しくて堪らなくなるまで、しないから」
散々、焦らされた後の快感って。
そうそう味わえないよ?
「意地悪、ですね」
「俺ァ、ドSだからな………第一、ゴムの買い置きなんてねェし」
「私も、Sですよ」
後半が聞こえてないのは都合がいいが。
今、何て言った?
S、なの?