第16章 糸
「坂田さんが、好き」
そう言った朱里ちゃんは。
俺の前で見せた、初めての表情で。
「あなたが、好き」
もう一度。
柔らかく微笑った。
「降参?」
立ち上がりながら問いかけて。
その隣に立つ。
「……降参、します」
真っ直ぐな視線を受け止めて。
「これで、俺だけの朱里ちゃん?」
「……はい」
「俺、朱里ちゃんの『イイヒト』になれた?」
「さっき、なりました」
「朱里ちゃんが、俺の『イイヒト』だな」
「……私で、いいの?」
答えは決まってるのに聞くなんて。
でも、女は口に出して伝えなきゃ。
不安になるもの、なんだろ?
「そうだな……行くときも、イクときも、逝くときも、俺ァ朱里ちゃんと一緒がいいな」
「………」
「朱里ちゃんじゃなきゃ、駄目だわ」
「私も、です」
俺を見上げながら。
ふわりと笑う。
重力に従って、雫が落ちる。
「坂田さんがいい」
そう断言してくれたから。
俺も、形振り構わず言うわ。
「俺の全部、持ってけ泥棒」
勢い良く抱きついてきた朱里ちゃんを受け止めて。
強く抱き締め返す。
晴れて『恋仲』になったと。
捉えていいんだよね?