第13章 危
『坂田銀時が、欲しい』
その言葉を脳内で反芻して。
右のこめかみに一つ、口づける。
驚いた様子で、視線を向けたから。
「何?違った?」
じゃあ、アレ、どーいう意味?
俺が欲しいって。
その口が、言いませんでしたか?
「ギュッて、してくれるって、言ったから」
ああ、そういうこと。
違うことしたから、驚いたってことか。
俺は大袈裟に両手を広げてから。
朱里ちゃんを、胸へと引き寄せた。
「次は?」
未だに鼻を啜っているが。
さっきの一撃で涙は引いた。
見上げた視線は、柔らかい。
俺はそのまま額に一つ、口づけた。
「俺の何が欲しいの、朱里ちゃんは」
視線を合わせて。
そのまま額と額を合わせて。
「何でもあげるから、言ってみ?」
息が掛かる至近距離は。
鼻先が触れても。
目が離せない。
俺は首の角度を変えて。
そのまま、唇を近づける。
今にも合わさりそうな、スレスレの際どい位置で。
「言わねェと、熨斗つけてくれちまうぞ?」
返答は待たず。
その両端を啄むように、繰り返して。
わざと唇を避けながら、何度も何度も。
時折震える、長い睫毛と。
生理的に漏れる、甘い吐息。
握った手と反対の掌が。
俺の服を強く掴んで。
それが合図だと、言わんばかりに。