第11章 【元治二年 二月】組織の秘密と優しい嘘
そんな会話を聞いた直後に接触をしてきた山崎に、やはりその噂話は本当なのではないかと、不安にも思う。
信じ難いというより、夢主(姉)にとっては信じたくない…それが本音だ。
久しぶりに会った山崎に、安堵感と嬉しい気持ちになった夢主(姉)だったが、さすがにこの話を切り出すことは出来なかった。
山崎の変わらぬ様子に、切羽詰まった事ではないだろう、と、勝手に少し安心もする。
男装をして、久々の忍者部活動を再開した。
呼ばれた土方の部屋まで、屋根裏を通って行く。
先を行く山崎の後ろ姿にも、狭くて暗い埃だらけの床にも、懐かしさがこみ上げてきて、山南の身に何かあったのだろうかという不安は忘れかけていた。
とん、と静かな足音を二つ分立てて、屋根裏から降りる。
「失礼します。山崎です。連れてきました。」
「入れ。」
久しぶりに聞く土方の声は低い。
この襖の向こうに、夢主(妹)もいるかな、噂話はあれど…山南さんに会いたいなぁ…などと、夢主(姉)の心に期待が膨らむ。
すーっと山崎が開けた襖の先には、土方をはじめ…狭い部屋だというのに、見知った幹部が勢ぞろいしていた。
勿論、夢主(妹)も千鶴も居る。
が…山南の姿は無かった。
夢主(姉)は、ドクンと、大きく鼓動が鳴った気がした。
久しぶりだというのに、他の面々の表情が硬い。
ドクンドクンと痛くなる程、鼓動が鳴って、背中から変な汗まで出て来る。
「夢主(姉)、久しぶりだな。変わりはないか?…まあ座れ。」
思ったよりも土方の声色は優しいものだった。
夢主(姉)は土方の目の前に座り、真横を向いて、久しぶりの夢主(妹)と千鶴に、にこりとひとつ笑って見せる。
その瞬間、強張った二人表情に、やはりただならぬ事態なのだと悟った。
「報告がある。」
と、言う土方の低い声にかぶせるように、
「私から…私からよろしいでしょうか?」
と、夢主(姉)はいつになく真剣な声色を放つ。
いつもならば…空気の読めない声色で、真剣な話にもどこか能天気な夢主(姉)だが、今は違った。
その様子に土方が折れ、夢主(姉)の言葉を待つ。
「…噂話を聞きました。」
落ちついた声で、一言そう言うと、夢主(姉)はドクドクと早くなる鼓動に飲まれないように、深呼吸をした。