第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
「斎藤さん、会津の上の人達はなんだか少し混乱しているようです。」
笑うのを少し収めて、夢主(姉)は本来の報告を始めた。
「そうか。挨拶をしておくべきかと思ったのだが。」
「んー…挨拶できるかなぁ…多分少し時間がかかります。薩摩の人達との話し合いで手一杯なようなので。よかったら様子を見てお呼びしますね〜。」
場違いに緊張感の無い声色で報告を終えた夢主(姉)だが、報告内容には問題は無い。
なんともちぐはぐな…と、斎藤が夢主(姉)を見て苦笑していると、山崎が駆けてきた。
斎藤の指示で、山崎が会津の上層部への対応をまかされ、夢主(姉)は再び情報収集に行くことになった。
「じゃあ、私はまたひとまわりしてきま〜す。」
そう言って走り出したときだった。
「このっ!会津を愚弄するつもりか!」
ああ、また。と、薩摩藩士と会津藩士の争う声を聞き流し、そのまま走ろうとした夢主(姉)は、争う二人の間に入った男の異様な雰囲気に足を止めた。
「貴様が相手になるかっ」
頭に血の上った会津藩士が、体格は良いのに妙にしなやかな、その異様な雰囲気の男に斬りかかろうとしている。
あの人相手じゃ無理だ…
失礼ながら、会津藩士に対して夢主(姉)がそう思った瞬間…
腕が違いすぎる、と、斎藤が間に入ってそれを止めた。
夢主(姉)はほっと胸をなでおろす。
それにしても…変な人。
なんだろう…
殺気ではない、でも何かおかしな空気がその男から放たれているような、そんな感覚がした。
「池田屋では迷惑をかけましたな。」
その「変な空気の男」は、池田屋にて藤堂に怪我をさせたと言った。
その言葉に対し、斎藤はなおも冷静に、そして鋭い口調で言葉をかけると、その男の眉間に白刃をさらすきっさきを突きつけた。
斎藤と共にいた隊士はその展開に固まっている。
隊士から少し離れたところで、夢主(姉)は様子を伺っていた。
刀を向けられた「変な空気の男」は、身動きひとつしない。
やっぱりあの人なんかおかしい。
やがて斎藤はその男から謝罪の言葉を引き出した。
そこにいた薩摩藩士達の複雑な顔を見て、隊士達は落ち着いた様子だ。
そして、その変な空気の男は天霧九寿と名乗って去って行った。