第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
「何かと思えば新選組か。こんな浪人の手を借りねば戦えぬとは会津藩も情けないことだな。」
「壬生狼か。ここはお前達のような浪人などいらぬぞ。」
新選組に対する薩摩藩士の態度はかなり悪い。
斎藤率いる隊がとどまった蛤御門では、そんな言葉達はそこら中から聞こえて来るもので…隊士達は苛立ちを隠せなかった。
さすがに数も重なれば、争いが始まってしまう勢いだ。
さらには新選組を預かる会津藩にまで愚弄する言葉は投げかけられたものだから、会津藩士と薩摩藩士の睨みあいが所々ではじまっていた。
「――っなんだと!」
思わず飛び出す寸前の隊士を、冷めた口調で斎藤は制した。
世迷い言に耳を貸すな、と、隊士達に説いていく。
そんな中、くすくすくす、と小さく笑う声が斎藤の耳に聞こえてきた。
声のする方を向けば、夢主(姉)の姿。
土方から蛤御門にとどまることを指示された夢主(姉)は、周囲の情報収集に動いていて、今は報告に戻ってきた所だった。
「何かおかしいか。」
表情こそ出さないが、斎藤は少し怪訝な声で聞く。
「いえ、なんだかどこにいても悪口ばっかり言われるなぁと思ったらおかしくて。」
怒りに震える勢いの隊士達とは対極とも言えようか。
夢主(姉)は度重なる愚弄の言葉を笑いながら聞いていた。
「あんたはこんなときでも笑っていられるのか。」
そう呆れながら言う斎藤だったが、
考えてみれば、どこへ行っても必ず愚弄され、憎まれ口を言われるな…
よくもまあそんな言葉を思いつくものだと思うことも少なくは無い。
今までこんな風に考えたこともなかったが…確かにおかしいな。
夢主(姉)が笑っている理由が少しだけわかった。
そして、
「新選組なんかが来ているのか―――…」
と、タイミングよく新たな悪口が聞こえてきて、二人はくすくすと場違いに笑い合った。