第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
あたりの空気は一気に張り詰める。
永倉を含む、怒りに震える隊士達が「変な殺気の人」へ飛び出して行くのを土方が制した。
「変な殺気の人」は、全く何事もなかったかのように土方達に近づき、手柄探しに忙しいな、などと嫌味をこぼす。
そして、夢主(妹)をちらりと見ると、
「貴様は何故ここにいる?あの日も沖田…とか言ったか…非力な犬と共に居たな。」
冷めた口調で、上から見下ろすように言い放った。
思い切り沖田を馬鹿にした上、何故か夢主(妹)を気にするような口ぶりに、土方の眉間に皺が深くなる。
夢主(妹)はこの男が話す内容はどうでもよかった。
それよりも、あいかわらず変な殺気を放つ空気感が気になってしかたなかった。
永倉達がその男と言い合いをしている間もずっと、夢主(妹)は「変な殺気の人」を観察していた。
ずっと隙を探しているが一向に見えない。
殺気に温度が無いというか…実際に触れたらすり抜けてしまいそう…なんだか現実感が無い人だな…でもなんかひっかかる…
などと、夢主(妹)は思っていた。
「――――・・・」
言い合っている内容を、全く聞いていなかった夢主(妹)だったが、気がつくと土方とその男が戦いについて言い合っていることに気がついて、耳を傾けた。
土方の怒りをおびた声が響く。
ーーー人を殺すには、人に殺される覚悟をしろ
自分にも戒めなければならない言葉に、夢主(妹)はごくりと息をのんだ。
瞬間、土方と「変な殺気の人」の刀がぶつかり合う金属の音が聞こえてきた。
夢主(妹)は、はっと我にかえって二人の同行を見守る。
刀を交えた二人を、そのまま見守るしかなかった夢主(妹)の頭をぽすぽすと永倉が叩いた。
「おい夢主(妹)、このまま俺と先に行く覚悟あるか?」
はっ…そうだよね。このままここに居ても仕方ないよね。先に行かなきゃ… これは時間稼ぎなのかもしれないし。
夢主(妹)は長州の残党を追っている事を思い出して、永倉に大きく返事を返す。
「土方さん、先行ってます!」
土方が口元のみで笑ったのを確認してから、夢主(妹)は永倉に続いた。
振り向かずに進む。
土方の相手があの「変な殺気の人」でも、何故だか不安は無かった。