第1章 誠凜高校入学
<黒子視点>
──放課後。
『1年生の方はコチラに集まって下さい。今から出席を取ります。名前を呼ばれたら順に一列に並んで下さい。』
体育館に入ると、マネージャーとなった紺乃さんが人前で声を張り上げて、進行役をしていた。
中学の時、何をするにも裏方役で担っていた彼女。
表立つ行動を極端に嫌っていたのに…
正直、目を疑う光景だ。
『後は…黒子君だけね。えーっと、何処に───あ、いた。』
名前を呼ばれたので近付けば、早くも僕を見つけた彼女に目を丸くする。
(こんなに早く見つかるとは…)
と、別に隠れているわけでは無いのに驚いてしまう。
悲しい事に、それだけ普段から自分は“すぐ側に居ても気付かれない”のだ。
『黒子君、こっち。ここに並んでて。』
手招きされ、言われるがまま彼女の指示に従って整列する。
教室では一瞥するだけで、声を掛けられるどころか「話し掛けてくるな!」とオーラが滲み出ていた。
中学の時、誰に対しても大体“そう”だった為、入部届けで名前が知れた今、面倒臭がりの彼女は自分の事を避けるかもしれないと、密かに覚悟をしていた。
けれど…どうやら思い違いらしい。
帝光中生徒の中、バスケに興味を示さず、その関連の関係性ですら煩わしく思っていたと言う噂は一部では有名な話だ。
そんな彼女が、バスケ部のマネージャーとは…
(“黄瀬君”が見たらびっくりする光景でしょうね。)
「──なぁ、あのマネージャー可愛くね?」
「2人とも2年かな?」
並んで待っていると、色の付いた会話が聞こえてきた。
話題にされている当人達に目をやれば、楽しそうに話ている。
(あんな風に笑っていること事態が珍しいです。)
釘付けになって見ていると、今朝方バスケ部のブースまで連れて行った事を思い出す。
あの時、不意打ち向けらた笑顔に、内心ドキッとしていたのは自分だけの秘密だ。
自称紺乃さんの友人である“桃井さん“曰わく。
照れ屋で天の邪鬼な彼女の笑顔は、気を許した特別な人にしか見せないレア物なんだとか。
目の前には先輩方に笑いかける彼女の姿。
その関係性が気になりつつ…
“いつか自分も”と、羨望の眼差しを向けた。
(…僕も貴方の特別になれますか?)