第7章 キセキの駄犬
「そんな風に言って貰えるのは光栄です。丁重にお断りさせて頂きます。」
「Σ文脈おかしくねぇ!?」
深々と頭を下げた黒子君に対し黄瀬は“ガーン”と嘘泣きをする。
今や小学生でもやらないリアクションだ。
『さ、答えは貰った。お帰りはあちらの扉からどうぞ?』
ウエイトレスのように手を出し、丁寧に誘導してみたが、効果は無く…
「ΣΣ追い出したいだけじゃないっスか!!つーか、今のじゃ、真澄っちの指示スよ!!」
と、立ち上がった際に手を叩かれてしまう。
「そもそも、黒子っちらしくねっスよ!勝つ事が全てだったじゃん!!何でもっと強いトコ行かないの?」
黒子君に向き直る黄瀬は手を広げ、尚も訴える。
「“あの時”から考えが変わったんです。何より火神君や紺乃さんと約束しました。君達を…“キセキの世代”を倒すと。」
黒子君の言葉に黄瀬の整った目が大きく開くが、一度、呼吸をするように伏せて開くと、冷たい光が灯っていた。
「…やっぱらしくねースよ。そんな冗談言うなんて。」
「冗談苦手なのは変わってません。本気です。」
より鋭くなった黄瀬の視線に負けじと見つめ返す黒子君。
火花を散らす2人に“面倒臭っ”と思った私は、捨て置かれた灰色の上着を拾うと、黄瀬の顔目掛けて投げつけた。
「Σぶっ!?」
『…校門まで送る。』
有無を言わさぬ勢いで黄瀬の手を取り、引っ張るようにして前を歩く。
上着を着直す暇すら与えずに出口を目指す私に黄瀬はふてくされていたが、何かを思い付いたのか急に反抗を止め素直に歩き出した。
不思議に思い、振り返ると黄瀬はニンマリと笑う。
「解ったっスよ。今日はこれで帰るっス。──けど、手ぶらで帰るのは腑に落ちないんで、お土産ぐらい貰っていっても良いスよね?」
“何を?”と口を開きかけた瞬間、意志とは反対に手を引かれ、後ろへと倒れ込む。
トン、と黄瀬の胸へ背中が当たると、後ろから回された手に顎を固定され…、
ちゅ。
「「『ΣΣんな!?///』」」
耳に響くリップ音。
慌てて後ろを振り返れば…
「俺、真澄っちの事、離れてても手放す気は無いっスよー?」
と、無駄にデカい声で言い残し、駆け足で体育館から去っていった。