第7章 キセキの駄犬
人気が無くなった体育館に入ると、
“─ガシャン!!”っと盛大な音が響いた。
どうやら、先程のギャラリーを作った“元凶”が、うちのエースと競い合って、いとも簡単にダンクをキメちゃってくれたらしい。
掴んでいたゴールから降りる際に、揺れる蜂蜜色の髪は、窓から差す光をふんだんに浴びて持ち主の美貌を一層際たたせている。
(相変わらず、目立つ男だ。)
──“黄瀬涼太”。
中学2年からバスケを始め、瞬く間に帝光でレギュラー入り果たした強者。
“キセキの世代”の内の1人であり、
中学時代、最も一緒にいる時間が長かった“やっかいな”友人の1人。
部室で読んだ雑誌によると…
“キセキの世代”の内、4人と比べると経験値の浅さはあるが、急成長を続けるオールラウンダー、だと記載されていた。
「ん~…これは…ちょっとな~」
黄瀬は床に座り込んだままの火神を一瞥すると、黒子君に振り返る。
「こんな拍子抜けじゃ、やっぱ…挨拶だけじゃ帰れないスわ。…やっぱ黒子っち下さい。」
Σ…!?
「海常おいでよ。また一緒にバスケやろう。」
人懐っこい笑みの裏に隠れる情熱。
相手が女性なら、告白とも取れる言葉だが…
単に“悔しい”のだと感じとる。
少し前まで仲間だった黒子君が、自分よりも劣る火神とバスケをしている事が嫌なのだ。
(…ガキか。)
「マジな話、黒子っちのことは尊敬してるんスよ。“こんなところ”じゃ、宝の持ち腐れだって。ね、どうスか?」
『行くわけねーだろ。この駄犬が。』
「Σ!?」
腕を組み、ツカツカと怒りを露わにして黒子君の前へ出る。
「Σ真澄…っち?」
私を映した黄瀬の瞳は、信じられない物を見るように目を大きくさせた。