第7章 キセキの駄犬
職員室へ来ると、担任は私以上に怠そうにしていた。
横暴且つドSだと評判を聞く彼は…
長身で細み、黒いスーツを身に纏い、長いモミアゲに切れ長の目をしている事から、私は某マフィア漫画に出てくる家庭教師に似ていると思っていた。
『要件は何ですか?』
「回収したノートを返しそびれたから今から返して来い。」
渡された数は、クラス全員分。
(返せって…)
もう皆、部活へ行っている。
『全ての部活へ回って配れと?』
担任は“それ以外に何がある?”と小馬鹿にしたような顔で煙草の煙を吐いた。
私は素早い動きで煙草を取り上げると、机に置かれていた灰皿へ“グシャ!!”と押し付けた。
『職員室は禁煙ですよ?』
人当たりの良い笑顔を向けると、舌打ちされた。
教師に目をつけられたくは無い。
けれどナメられて、使い勝手の良い優等生に成るつもりも無い。
私は当たり障り無く、部活が出来る生活が欲しいのだ。
『ノートの件ですが…部活を優先したいので断りします。他を当たって下さい。』
“私なんかより、もっと暇そうなのが居るでしょう?”
そう、笑顔で毒づいてみる。
見た目と違い、面倒な生徒なのだと印象に残るように。
所が担任は、フンと鼻で笑うだけ。
ぃゃ、寧ろ面白い玩具を見つけたような…
嫌~な笑みを浮かべた。
「紺乃はバスケ部の“お忙しい”マネージャーだったなァ?今回、提出させたこのノートだが…火神が一問も出来て無かった。と、言うか…書いている日本語の文自体が危うい。ぶっちゃけた話…他の担当教科の先生方からも苦情が来ている。…このまま放っておくと追試や補習で部活どころじゃ無くなるだろうなァ。」
『…何が仰りたいんです?』
「言わずとも…解ってんだろ?」
…要するに、だ。
『私が頼み事を聞けば、火神君の補習や追試の嵐から救ってくれる、と?そんな事流石に…』
「紺乃、良いことを教えてやろう。俺は使えるモノは何でも使う。それが可愛い生徒だろうが、下衆な大人だろうが関係無い。追試や補習の回数を減らすぐらいなら、お前の返答しだいでなら助けてやる。まぁ、流石に期末で赤点なんか採った時は無理だがな。」
──さぁどうする?俺の下僕となるか…
火神失い、インターハイ出場を逃すのか。
答えは一つ。
『下僕になるしか選択し無ぇじゃねーか!』