第5章 屋上
<日向視点>
今朝の騒動から時間は流れ、
今は部活中。
反応や俊敏性を高めるラダートレーニングをクリアーした俺達は、束の間の休憩に一息ついた。
カントクは、不慣れなステップに遅れをとる1年生達にアドバイスを伝え、手持ちの個人データに書き込みしていく。
紺乃は、タオルやドリンクを配り、次の練習の為にラダーを素早く纏めると、雑巾片手にモップ掛けを始めた。
普段“面倒事はお断り!”と、口にしている割に、紺乃は休む事無く小走りに体育館を駆け回る。
余所の部活なんかで見るお飾りマネージャーなんかより、懸命な仕事ぶりに関心していると、ソレを同じく目にしていたカントクの口元が緩んだ。
「本当、あの子には驚かされてばかりね。」
近くにいた俺と伊月君は「“日本一”宣言の事か?」と反応する。
「全部よ。全部。」
“出会ってから今まで”
そう、笑って答えるカントクに納得した俺達は「確かに。」と、力なく笑う。
「朝の宣言の時にね、“達成できなかった時の罰則を了承するかわりに、バスケ部の誰かが責任として、嫁にしろ”って。」
「はあ!?」
「Σ嫁!?」
また何つー突飛な…ι
呆れる俺に対し、伊月は心なしか焦っていた。
「で、了承したの。“嫁入り前”なんだし。責任は取らなきゃってね。でもねー、私気付いちゃった事があってー。」
カントクは持っていたペンを口元にチョンと当てると、盗み見るように視線をずらす。
不自然なその動作に、疑問を持ちつつ視線の先を辿ると…
「黒子と火神?」
黒子はドリンク片手に…
火神は頭からタオルを被った隙間から…一定の位置だけを目で追っていた。
自然と2人が見つめる先へ目を向ければ、紺乃の姿。
しかも、コガが紺乃に抱き付き、無邪気に仕事の邪魔をしている。
「ΣΣ解りやすッ!!」
「でしょ?でもってー、此処にも。」
カントクはポンッと肩に手を置く。
「私の目は誤魔化せないわよ?
──伊月君。
貴方…“あの日”からでしょ?」