第5章 屋上
<黒子視点>
『──“お嫁”にして下さいね?』
そう言われた瞬間、頭の中が真っ白になった。
青い空を背に、いつになく凜としていて…、これまでに出会った誰よりも綺麗だった。
多分、そう感じたのは僕だけでは無くて…口惜しくも、ここにいる全員が心を奪われた瞬間だった。
紺乃さんは、呆けている皆を気にも止めず、拡声器のスイッチを切ると、迷い無く僕の所まで来て『はい』とソレを突き出す。
『次は黒子君。』
その言葉に深い意味は無く、きっと聞けば“一番近い距離に居たから”と答える筈です。
けれど…
他の誰かではなく、次に僕を選んでくれたことに意味を持ちたくて…
“つい”言っておきたくなった。
「どっちにしても、僕が責任を取ります。」
ポツリと小さく呟けば、案の定紺乃さんの耳には届かなかった。
“何?”と小首を傾げ、見上げる紺乃さんに「借ります。」と言ってごまかし、拡声器を受け取る。
「次は…?早くしないと先生来ちゃうよ?」
カントクはチラチラとグランドを意識しながら、他の仮部員達に声を掛けていた。
「すいません。声張るの苦手なんで、僕もコレ使っても良いですか?」
何事も無かったかのようにカントクに話かけ、許可を貰うと拡声器のスイッチを入れる。
火神君や紺乃さんに先を越されてしまったけれど、僕なりの覚悟を決めなくては。
意を決し、すぅと息を吸い込んだ瞬間──、
「コラー!!またかバスケ部!!」
地響きにも似た先生の怒声が屋上に響き渡り、バスケ部の宣言はここで中止となった。