第1章 誠凜高校入学
先輩の指示により、机の隅に置かれたペットボトルのお茶を取り、紙コップに注ぐ。
一つは薄い青年へ。
もう一つは虎青年の前へと置く。
「ウチは去年できたばっかの新設校なの。上級生は二年だけだから、キミみたいに体格よければ直ぐに…」
「そーゆーのいいよ。名前書いたら帰る。」
お茶を手に取り、先輩に敬語すら使わない態度に眉を寄せる。
(…部活始まったら指導モノね。)
内なる自分を抑え、用紙とペンを彼に渡す。
(名前は…火神大我、中学は…Σアメリカ!?ワォ。本番じゃん。)
『これは使えそうな選手n、って…何んで席を離れてんの?志望動機が書いてないわ。』
「…別にねぇよ。どーせ日本のバスケなんて、どこも一緒だろ。」
火神君は、飲み干したお茶の紙コップを潰すと、後ろを振り返らずに放り投げ、立ち去っていく。
───カシャッ。
見事ゴミ箱に入るソレ。
『先輩、バスケ部員って便利なんですね。』
「皆が皆あんな神業できる訳じゃないわよ?ι…それにしても、さっきの表情…何かしら?」
『…さあ?さっきの台詞通り、日本のバスケを見下しているのでは?何せ、彼は本場仕込みですし。…それより、首根っこ掴まれて帰って来た先輩はどちらに?』
「彼なら引き続き勧誘に行ったわ。どーして掴まれて帰ってきたのか知りたい所だけど。…あら?そこの入部届け集め忘れてる。」
『あ、きっとコレはさっきの…』
(そー言えば、火神君に気を取られている内に居なくなっちゃったなー。)
「“さっき”って?誰か来てたの?」
『はい。人混みの中、此処まで連れて来てくれた人なんですけど…やたら存在感が薄くて…えっと、名前は…』
用紙を見て固まる。
『…黒子、テツヤ?』
脳裏を過ぎったのは、桃色の髪を靡かせる友人の声。
「──いいなぁ紺乃ちゃん。テツ君も誠凜に行くんだよー。」
『…Σあの人が!?帝光バスケ部員の“黒子”君!?』
「Σえぇ!?“帝光バスケ部”出身!?しかも、今年1年ってことは…“キセキの世代”の!?うわー!!なんでそんな金の卵の顔見てないんだ、私!!さっきの奴はアメリカ帰りだし…今年1年ヤバい~!?」
『Σちょ、先輩!?落ち着いて下さい!通り過ぎる人が何事かと見てます!』
この後、数分後に鳴る予鈴のチャイムが終わるまで、先輩と私は喚いていた。