第2章 幻の6人目
<黒子視点>
『─はあぁ?』
交差点から聞こえた大きめの声に反射して、目が道路を跨いだ先に居る紺乃さんの姿を捉えた。
声を掛けようと口を開きかけるが、彼女の隣に火神君が歩いていて、途端に口を紡いだ。
“いつの間に?”と、距離の縮まった2人に対して言い表せない疎外感を感じる。
早くこの場を去りたい衝動に駆られるが、学校に向かうには2人の歩いて行く道を通るしか方法は無く…やむを得ず、自分の特技を使い“2人に気付かれずに追い抜く事”に決めたのだった。
『──才能が無いから“バスケをやめろ”って?』
当初、盗み聞きをするつもりは無かったが、近づくにつれて聞こえてしまった内容に戸惑う。
(昨日、火神君に言われた台詞ですね…)
大好きなバスケを“やめろ”と言われて少なからずカチンときた僕は、あの時“誰が強いとかどうでもいい”と答えた事に後悔した。
流石に“どうでもいい”は言い方が悪かったかもしれない…と、前方の2人を見ながら考えていると、紺乃さんは火神君の傘を持つ腕の下…所謂、脇腹に勢い良く正拳突きを喰らわせた。
「Σ…っ痛って!?何すんだよ!!」
見事的中した拳は巨体をよろけさせ、突然の仕打ちに驚いた火神君は声を荒げる。
そのまま通り過ぎる事もできたのに、僕までも彼女の突拍子の無い行動に目を奪われ、その場に立ち尽くす。
紺乃さんは先程とは雰囲気が一変し、不機嫌そうに舌打ちをした。
『火神…アンタもバスけ辞めなよ。』
(─!)「はあ!?」
『あれー?怒った?ゴメンねー?でも、人には簡単に言っちゃうのにー…言われたら怒るなんて身勝手だねー?』
間延びした話し方をする紺乃さん。
僕にはキセキメンバーの1人を連想するだけだったが、火神君に対しては“わざと”挑発しているように取れる。
「…お前、話聞いてたのかよ?俺がアイツに言ったのは…」
『やーね。ちゃんと聞いてたわよ。だからアンタにも言ってるんじゃない。才能無かったら“やめろ”って言っても良いんでしょ?』
「…ッ!俺のプレーも見ずに何処に才能が無ぇって評価してんだよ!?」
火神君は額に青筋を浮かばせ怒鳴りつける。
紺乃さんはその言葉を待ってましたと言わんばかりに、目を細めると…
『チームを…人を引っ張っていく才能だよ。』
と、冷たく笑った。