第2章 幻の6人目
辞典で「春雨」と引けば“春先にしとしとと静かに降る雨”と載っている。
とても風流で味わいのあるフレーズだが…
現実はそんな生易しくはない。
…だって今日は土砂降りだもの。
色味の無いビニール傘を差し、少しでも足元や鞄が濡れないよう歩く。
いつもより早い朝に、覚めていない頭はボーとしていて、気を抜けば瞼が落ちてきそうだ。
交差点を渡り終えると、ばったりと火神君と出くわした。
面倒臭くて、そのまま無視して行こうとすると、軽く挨拶された後、当たり前のように横を歩きだした。
『何んで一緒に歩いてんの?』
「そりゃー、お前が“自分で確かめろ”った結果を話す為だ。学校に着くまでの“ついで”だけどな。」
『…別に興味無いのに。』
無愛想に返すも、火神君には全く通用せず。
反論するのも面倒なので仕方なく耳に入れて歩く。
話は、私と別れた後の事だった。
マジバへ寄った彼は偶然にも黒子君と遭遇し、真相を確かめるべく1on1をしたんだとか。
結果“死ぬほど弱かった”と言う評価に「お前の言ってた“6人目”って、違う奴と間違ってんじゃねーのか?」と、難癖を付けられる。
「俺もある程度は相手の強さは解る。強ぇ奴ってのは独特の匂いすだよ。弱けりゃ弱いなりの匂いがするしな。」
(匂いって…ι)
『じゃぁ、黒子君は弱い匂いがしたんだ?』
「ぃゃ、アイツは何も匂わねーんだ。…強さが無臭とか、今まで会ったこと無ぇから、最初は意図的に“何か隠してる”のかと勘ぐっちまってよ。噂の事もあって少なからず期待もしてたし…まさか、弱すぎて匂いを感じ取れねーだけとか……本当、俺もどーかしてたぜ。」
『ふーん。』
「弱ぇ奴に興味ねーけど、流石に悲惨だったからよ。最後に一つ忠告してやったんだ。」
『忠告?』
「“バスケをやめた方が良い”って。」