第2章 幻の6人目
迫る勢いの私に対し、言葉を詰まらせた火神君。
少しの沈黙後、発した言葉は「…覚えてたのか。」だった。
『カントクが気にしてたからね。』
腕を下ろし、スプーンを取り出せばお目当てのアイスを一口掬い、大口を開けて頬張った。
広がる甘さに頬が緩み『幸せ~』と、余韻に浸ると「安い幸せだな。」と、火神君に鼻で笑われる。
(Σダッツを“安い”だと!?高いアイスだっつーのに!ぁ、今の伊月先輩に教えてあげよっ…じゃなくて!!)
実は火神君はお金持ちなのでは?とか。
だから簡単にアイス奢ってくれたのでは?とか。
アイスを黙々と口にしながら、脳内で分析していると、降り注ぐ視線に気がつき眉間に皺が寄った。
『…食べにくいんだけど。』
「あー、わりぃ…余りにも旨そうに食うから、つい。」
(Σまさか今頃欲しくなったとか!?)
『……ぁ…あげないわよ!!』
「Σ要らねーよ!!つーか、話が反れてるだろ!結局、アイツは何者なんだ?」
『彼は…“キセキ”から一目置かれた、幻の6人目だよ。』
「──は?…一目置く?」
『あ、言葉難しかった?“一目置く”自分より相手が優れていることを認め一歩を譲ること。英文でtake a back seat…かな?』
「ぃゃ、意味は解るけど!!」
『そ、良かった。じゃぁ、当初の質問にも答えたし(アイス盗られる前に)私は帰r…』
「Σちょ、待てよ!!」
突如、私の首根っこを掴む火神君。
“ふぎゅっ”と変な声が漏れたが、彼は完全無視だ。
「“幻の6人目”って何だよ!?勿体ぶらずに言わねーと、俺がコレ食っちまうからな。」
所謂、猫掴みをされたまま動けない私をいい事に、火神君はいとも簡単にアイスを取り上げた。
人質ならぬ物質だ!
『Σああっ私のダッツ!!』
(さっき要らないって言ったくせに!!)
手を伸ばしてみるが、身長差で掠りもしない。
『…もぅ!!“キセキ”の試合なんて見たこと無いし、知らないわよ!!噂でも“誰も知らない、試合記録も無い”って言われてるんだから!!知りたかったら自分で確かめたら良いじゃない!!』
私の言い分に納得した火神君は、その後あっさりとアイスを返し身柄を解放した。
やっと、帰宅できると歩きかけるが、手元の溶けたアイスを見て…『次の機会にはクリスピータイプを買わせてやる。』と、拳を震わせるのだった。