第1章 秋来にけり耳を訪ねて枕の風
さて、どうしたものか。江戸へ降り立ったは良かったものの身寄りはない。町は大きく変わり、勝手も分からない。先程格好つけて桂の元から去らなければ良かったと後悔する。
あれは、そう、あれだ。初登場シーンだったものだからつい、というアレである。
しかしここで桂の元へ戻るのは恥ずかしい。そうでなくても、幕吏から逃げ回ってるのが常の男だ。住まわせてもらう以前の問題である。
『......困りましたねえ』
言葉の割には楽しそうな吾妻。日が昇っているうちは散策と行こうと決めた。