第2章 日下万里
新入生挨拶を無事に終わらせ、真依は万里の後ろを歩き、席に戻った。
周りの視線が自分たちに集まっているのを感じる。
席に戻ると、隣に座っていた石川あずさがニヤニヤとした笑顔で囁いた。
「お疲れ、相変わらず注目されてんねぇ」
あずさの言葉に軽く肩をすくめ、何事もなかったかのように席についた。
注目されるのには慣れていたし、何より今回は注目が二分されている。
女子の注目は、日下万里に向けられていた。
頬を赤らめ、万里をチラチラ見ながらコソコソと喋っている子たちに、手を振る万里の姿が見える。
(日下万里、ねぇ・・・)
「容姿端麗成績優秀なんて嫌味なやつ、真依だけだと思ってたんだけどなー」
期待と退屈に満ちた入学式を終え、教室に戻る途中、あずさが突然呟いた。
「失礼ね、私が美人なのは私のせいじゃないわよ。成績優秀なのは私がちゃんと勉強してるからだし。嫌味じゃないわよーいたっ」
あずさの少し冷たい指が、真依の頬をつねった。
「ちょっとは謙遜しろよ」
「つねらなくたっていいでしょー。謙遜したらしたで、嫌味なやつ、ていうくせに」
自分の頬をさすりながら、あずさを軽く睨んだ。今のは結構痛かった。
「よくわかってんじゃん」
そう言って、あずさは笑った。
もう、と言って少し先に見えてきた教室に目を向ける。
新しい学校。新しい教室。新しいクラスメイト。
期待と不安が、心をいっぱいにする。
(でも、あずさと一緒だから大丈夫)
「・・・真依」
「なぁに?」
隣を見ると、あずさの凛とした横顔があった。
「楽しい高校生活にしよう」
あずさの言葉に、真依は顔を綻ばせた。
きっと、楽しい3年間になる。