第1章 はじまり
そろりと奴に使える彼女に視線を戻せば、何故か三席はクスクスと鈴の転がるような音で笑っていた。
「仲がよろしいんですのね」
「は?」
何言ってんだこいつ。今の見てたのか?
「あのー今の完璧総無視されてたんですけど俺」
「朽木隊長は朝はいつもああなんです。どうも朝は弱いようで……」
「はあ……」
それで何で仲が良いって事になるんだ?
「でもこれからはきっと大丈夫ですわ」
「そなの?」
「ええ、だって山本隊長がこれから起こして差し上げますのでしょう? きっと貴女様でしたらあの朽木隊長もすぐに目をお覚ましになられましてよ」
「何で?」
「え?」
「何で俺があいつを起こさにゃならないんだ?」
「え、だって山本隊長は近々朽木家へお輿入れなさるのでしょう?」
「…………は?」
お輿入れ? 輿入れ……輿入れって……は?
「なにそれ」
「あ、もしかしてまだ公表はなさってらっしゃいませんでしたの?」
疑問符を顔全体に貼り付けた俺に、三席がしまったと口許に手をあて眉を寄せる。
「申し訳ございません私はてっきり……あ、でも我が隊では副官と私までしかこの事は存じ上げてませんので」
御安心を、と最後まで言いきられる前に、俺はガタリと勢いよく立ち上がり隊主室へと駆け込んでいた。