第1章 はじまり
「朽木ぃっ!」
怒鳴り声をあげ部屋へ入れば、朽木が手元の書類から視線を俺へと向けてくる。それにダンッダンッと足音を立てながら近付くと、業務机越しに奴の胸ぐらを掴みあげた。
「ちょっと聞きたいことあんだけど」
朽木は相も変わらずの鉄面皮で「なんだ」と返してくる。
「こないだの話、確かに俺断ったよな?」
「この間の話?」
「俺がお前と……の話だよ」
怒鳴りそうになるのをなんとか堪えながら、出来るだけ声を潜め言えば朽木はなんの迷いもなく首を縦にふった。
「じゃあ何で話が進んでんだよ!
今っ、おまっ、あいつっ……あーっ驚きすぎて言葉がまとまらねー!」
ウキーッとまるで癇癪をおこした猿のように頭をかきむしる。いや、これを怒れずにおられるものか。
「大体だな、結婚だぞ結婚! お前この事の重大をわかってんのか? 俺ゃあな、こう見えても女なわけだよ。わかる? 男に見えるかも知れないけど女なわけ。結婚っていやぁお前そりゃ大層な催しなんだよわかってんのか!?」
「私ではない」
「あ!?」
「此度の事はむしろそなたの祖父━━山本総隊長と信恒が独断で動いた事。私の指示ではない」
あ・の・く・そ・じ・じ・い。
「断れよ! お前当主なんだろ朽木家の!」
「信恒は私が幼少の頃よりこうと決めたことはやりきるまでは止めぬ性格だ」
「そんな所まで兄弟そっくりになんなくていいんだよぉもお!!」
どうする。どうする俺。頑固二人組が協定結んでかかってくるとなりゃそりゃもう最終あの世行き決定じゃんよ。いっそ諦めるか? たった半年じゃん、半年くらい……。
いやいやいやダメだダメだ無理無理無理!