第2章 魔導師
迷うことなく、すっと二文字が浮かび上がった。
僕が唯一覚えていることなのかもしれない。
「僕は…マヤ」
目が覚めて初めて出した声は自分のものでないように感じた。震え混じりの低めの声。
僕が答えるとすぐに3人は肩をくんで急に小声で話し始めた。
やっぱり声変だったのかなぁ…。
落ち込みかけた時、小さいながらも3人の会話が聞こえてきた。
『なぁ、僕って言ってるってことは男なのか?』
『俺は女だと思ってたんだがなぁ』
『全く、シンがしっかり確認しないから…』
『ジャーファルだって女の子って言ってたじゃねーか!』
よかった、声のことじゃなかった…。それにしても『僕』って言うのおかしいのかな?
「マヤ、君は男なのか?」
シンドバッドは恐る恐る僕に聞いた。顔に焦りが出ている。
「僕は女ですよ、疑わなくても」
そう答えると3人はほっと溜息をついてその場にしゃがみこんだ。
「3人とも失礼よ。女の子に向かってそんなこと言っちゃあ」
それと同時に部屋のドアが開いて、女の人が入ってきた。
その人は優しく微笑んで僕を見た。
「ちゃんと目が覚めたみたいでよかった。思ったより早い回復だったわ」
「マゴイを死にかけ寸前まで使い果たしてたからな」
女の人とシンドバッドが僕にはよく分からない話を始める。マゴイ。また知らない言葉だ。
ひらひらっと何かが飛んできて僕の肩に止まった。白く光る、小さなもの。
「なに、これ?」
僕は女の人に聞いた。
するとその人の笑顔は消えて、こわばった顔に変わった。
「キミ、それが見えてるの?」
僕はこくん、と頷いた。
一匹、また一匹と僕にどんどん謎の物体が集まってくる。
「なんでルフがこんなに!?」
「ヤムライハ、どういうことだ?」
「ルフがこの子の周りにどんどん集まってきてるの!まるで力を貸してるみた…」
ヤムライハと呼ばれた女の人の言葉はそこで途絶えた。言ってはいけないものを言いかけてしまったみたいに。
「キミはマギなのか…?」