第2章 魔導師
「うっ」
フラフラしていたせいで僕は男の人にぶつかった。しかも相手が悪い。ぶつかった男の人は機嫌の悪そうな顔でこっちを向いた。
「なんだこのガキ。いっちょまえにぶつかってきやがって」
「けどこいつガキの割には可愛い顔してまっせ」
その男と一緒にいたもう一人の人も僕をジロジロと見て言った。
「へへ。奴隷として売っちまえば結構高値で売れるんじゃねーか」
そう言って僕の腕を掴み、引っ張り出した。どこに連れて行かれるんだ、僕は。振り払いたいのに力が入らない。声も出ない。
「っいやっ…は、はなして…」
「あ"?聞こえねーなー。大人しくついて来い!」
助けて、シン!
僕はシンがいた方を見たが、そこにはもうシンはいなかった。連れて行かれる、ということへの拒絶感でいっぱいだった。
「うちの者に何か用ですか?」
もう終わりだ、と思った時に誰かに肩を掴まれた。条件反射で後ろを向くと笑顔のシンがいた。
シン…。
「うちの者だ〜?この商会ではガキまで売ってんのかよ!」
「いえいえ。この子は我が商会の大事な一員です」
商会の、一員…?僕が…?
一言二言話しただけのシンにそう言われて嬉しかった。もしかしたらあの場を収めるだけだったのかもしれないけど、とにかく嬉しかった。
「ですのでお帰りください。お気に召す物もなかったようですし」
「チッ。分かったよ…」
そう言うと男は手を離した。それを見たシンも肩から手を離す。僕は後ろを向いてシンにお辞儀をした。
「ありがと…っ!?」
お礼を言いかけなのに僕はとんでもないスピードで後ろ向きに引っ張られた。
…さっきの、男だ。諦めてなかったんだ。
「へっ!一躍千鈞のチャンスを逃すわけには行かねぇからな!!!」
「マヤ!!!!!」
シンの声が建物の中で響く。商品へ目を向けていた人たちの視線はどんどん僕に集まる。けど見てるだけで誰も助けようとしない。
離して…。離して…。
声にはやはりならない。けど、僕はまだここにいたいんだ。シンやジャーファルと一緒に。
《己の力を呼びすませろ》
そう聞こえた瞬間、僕は叫んだ。