Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第39章 ★Snow Magic 《大将 優》
Ⅳ"24日、夜10時。
【蒼井 side】
振り向いた視線の先、そこには一人の青年が立っていた。
「あの、間違ってたら…いや、間違ってるワケねーよな。みそら、だろ?」
私を見詰める瞳。5年振りのその眼差しは、蛇みたいだったけどその奥には優しくて温かみのある光があった。
するり、と腕を引く原野くんの手を振りほどき、青年へと歩み寄る。そしてそっと、その胸板に触れた。呼吸の度に上下するそれに、ペタペタと触れる。
『うそ………うそ…スグ、くん……っ?』
「やっぱり、みそらだ…」
そう言うと、スグくんは私を抱きしめた。キャアッと店内から声が上がる。胸元に添えた手で押しても、スグくんの力には敵わず、ビクともしない。
スグくんの温もりを全身に感じながら、ぼんやりと思う。これはきっと、良くできた夢なのだ。スグくんがここにいるわけなんて、あるはずないんだもの。
「みそら、ウソだと思ってるだろ?」
『っ!?、そんなこっ……ん、ふ…っ』
ぱっと、顔を上げた瞬間、唇が触れた。柔らかに熱を持ったそれがスグくんのものだと気付くのにそう時はかからない。お互いのくぐもった吐息が、唇から零れる。
ちゅ、ちゅっと浅いキスを繰り返す。つぅと頬を暖かいものが伝う。人が、嬉しくて涙を流すというのは本当だったんだ。
スグくんは優しく、涙を親指で拭った。それから手を握り、ドアへと誘う。
「行こう」
『スグくん…』
その時。スグくんの握る右手の反対、左手を、原野くんが掴んだ。振り向くと、捨てられた子犬みたいな困惑する原野くん。その横で、キャーと口に手を当てる千智。
「俺のオンナ、触ってんじゃねーよ」
「海宙、いってらっしゃーい!」
『あっ、え、千智…っ、原野く、ごめ…』
バタンッ、と閉まった扉により、"ごめんなさい"は原野くんに届かなかった。
一歩前のスグくんを追う。ちらほらと白い綿雪が降っている街を、イルミネーションが鮮やかに、華やかに彩っている。
『スグくん、待っ、て、速いよ』
「ごめん、俺ちょっと、混乱。静かに2人っきりで話せる所、行きたいんだけど」
後ろを振り向き、いいか?と訊ねるスグくんに、私は迷わず首を縦に振った。引かれるままに向かったのは、すすきの。どこに行くかはもう、分かりきっていた。