Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第38章 ☆世界一、君が好き。《及川 徹》
その瞬間、徹の雰囲気が変わった。なんとなくだけど、殺気に似たものも感じた。
「…海宙、それはダメだよ」
そう言われて、初めて気付いた。どんなことを、自分が言ったのか。
『ごめ、徹、私…っ』
「分かってる。海宙のこと、一人にして、寂しい思いをさせてるのも申し訳ないと思ってる。でも、それだけは言わないで。俺を好きと言ってくれるなら」
決して怒ってない、その口調が、かえって私の涙を誘った。そして、ホロリと零れる。
『ごめ、徹…っわ、たし、ひどいこと…』
「うん。海宙に悪気がないのも知ってる。俺のこと想ってくれてるのも」
『でも、あれだけは、言っちゃ、だめ、だったのに、私、自分勝手、で…っ、うく』
"徹がバレー選手じゃなかったらなぁ"
なんて無責任で、なんて冷たい言葉。
バレー選手じゃなかったら、なんて。そんなもの、徹の人生を否定してるようなものじゃないか。どうして私は、気付けなかったの。
『徹のこと、好き、だから…っ、怖いの。徹は、かっこ、いいし、強い、から。いつも、心配で。他にも可愛い子、いる、から』
「大丈夫。俺には海宙だけだよ」
『わかっ、てる。でも、ダメなの。どんなに優しくされ、ても、不安にな、るの。本当は、ずっと、徹と2人で、いた、いの』
嗚咽混じりに言葉にする。恋をすると、人は盲目的になる。そして、自分勝手になる。恋人を離したくないと、自分だけのものにしたいと思ってしまう。
人はそれを、"わがまま"というのだ。
『ごめ、こんな、わがまま…っ、私…』
「そんな風に思ってくれてて、嬉しい。でも俺だって不安なんだよ?海宙は可愛いし気立てもいいから。メンバーでも海宙のことイイねって言うヤツいるし。俺も、必死なんだよ」
ぎゅうっと抱きしめられれば、徹からの"好き"が伝わるみたいで、安心した。
「俺はさ、もう少しバレーしたいよ。でもその間、寂しい思いもさせるかもしれない。それでも、俺を好きでいてくれる?」
『っうん、うん!私も、徹のこと、好きでいていい?徹の彼女でいていい?』
「もちろん。俺がこんなに人を愛したのは後にも先にも海宙だけだよ」
照れ臭いような、恥ずかしいような。クスリと笑って、顔を見合わせて、それからはにかむようにキスをした。