Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第38章 ☆世界一、君が好き。《及川 徹》
あれから2軒目の居酒屋さんでぐでんぐでんになった私は、3人に運ばれて家まで送り届けられることになった。私をおんぶするのはもちろん岩泉。
『うわあぁんっ、ひっく、う、とおるっ』
「お前なぁ、人の肩で涙拭くなよ」
「わぁお、道行く人々の視線」
「やんややんや」
「オイそこ、楽しんでんじゃ…」
『わあぁんっ、ひぐ、うぇっ、とおるぅ』
「うるせぇ…」
そんなこんなでマンションに到着。岩泉は私を下ろそうとしたけど、私はしがみついて離れなかった。人の温もりが、恋しかった。
仕方なくソファに下ろされ、コテンと横になる。花巻に冷蔵庫にケーキがあると伝えると、喜んで飛んでいった。ぼーっとしていると、松川が水を持ってきてくれ、隣に座った岩泉は背中をさすってくれた。
『岩泉』
「あ?」
『ありがと。松川も、ありがと。あと、花巻は誕生日だったのに、ごめん』
「はいよ」
「ウマイから許す!」
ケーキを頬張る花巻。誕生日だったのに、悪いことをしてしまった。
目線だけで室内を見渡す。至るところに徹との生活の片鱗が残っていた。温泉旅行で撮った写真、徹の選んだカーテンに誕生日にくれたクマのぬいぐるみ。
一生分の、たかが5年。それでも、私にとっては濃すぎる5年間で、どうしようもなく愛しい1年間だったのだ。
「お前はさ」
ふと、岩泉が口を開いた。
「及川といるときが一番楽しそうだぞ。クソ川はプライド高ェしナルシストで腹立つけどよ。でも、イイヤツなんだよな」
『……うん』
悪口ばっかで反応が遅れる。
「だからさ。お前はここで、アイツの…及川の帰りを待っててやれよ」
『うん』
今度はちゃんと、即答した。たった2文字"うん"と伝えただけだけど、岩泉はそれで満足したようだった。そんだけだ、と短く言い、花巻とケーキ争奪戦を始めたようだった。
とろとろと眠気が顔を出した私の耳に、松川の声が届いた。
「及川と蒼井に対してはテキトーだよな、岩泉。でもさ、2人のこと一番心配してんだよ。そんで、2人が笑いあってんのを、誰よりも嬉しそうに見てる。岩泉って、そーゆーヤツだよ」
『うん…』
「そろそろ寝るか?」
『う、ん…』
「オヤスミ。ケーキ、とっとくな」
『おや、す、み……』
ぽん、と頭を撫でられたのを最後に、私の意識は遠退いていった。