Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第29章 ずっと、君だけを。《烏養 繋心》
空港に着いて、海宙の口数が減った。
「海宙、大丈夫か?」
『え、何が?』
「いや、なんか顔強張ってるし」
そうかなぁ…と言いながら海宙は自分の顔をぺたぺた触った。その右手をそっと取ると、海宙は分かりやすくビクッとした。俺のより一回り小さいそれを、ぎゅっと握る。
「大丈夫だ、海宙なら平気だ。日本だろうがアメリカだろうが、海宙なら上手くやっていける、だろ?」
にっと笑うと、海宙は小さく微笑んだ。
『うん、そうだね、繋心』
海宙もぎゅっと握り返す。その感覚に、付き合っていた頃のような錯覚を見た。それから手を繋いだまま、国際線のターミナルへと向かった。
さすが国際線、外人が多い。なんてコメントは置いておいて、いよいよ海宙とお別れだ。
じゃあな、向こうでも元気で、頑張れよ。
どうして、人というのは肝心な場面になって言葉が浮かんでこないんだろうか。いくら考えても普通で平凡なセリフしか出てこない。
と、海宙が立ち止まり、手をほどく。たたっと走搭乗手続きをするゲートに少し歩いた。俺と海宙の間、見えない何かが、できた気がした。
『繋心、ここまでで良いよ、ありがとう』
「おう。じゃーな、なんかあったらいつでも連絡しろよ。あと、たまには帰ってこいよ」
『もちろん。お盆とお正月は日本かな、しばらくはバタバタするだろうけど。電話の国際料金って高いんだよぉ?繋心が払ってよね』
「なんで俺だよ」
そんなやり取りも、もう最後だ。何かを言おうと海宙が口を開いた時、ピンポンパンポーン、と放送がかかった。
"ロサンゼルス行きの飛行機に乗る方は、お早めに手続きをお願いします。繰り返します、ロサンゼルス行きの飛行機に…"
『あ…じゃあ、私行くね!お見送り、本当にありがとう。またね!』
「おう、元気でな」
ひらりと手を振ると、海宙はコートを翻し、その小さな背中は人混みへと紛れていった。これで、最後か…ま、永遠の別れってわけでもないしな。
帰ろうとした刹那。
『けーしんっ!』
海宙の声に咄嗟に振り向く。そして投げられた小さな物体を掴んだ。
『――――、――――っ!』
最後の言葉は、雑音で聞き取れなかった。