Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第29章 ずっと、君だけを。《烏養 繋心》
しばし呆然とする。トンっと肩に誰かのぶつかる感覚で、慌てて我に帰る。咄嗟に掴んだ小さなもの、それは紙をくしゃっと丸めたようなものだった。
海宙が最後に何を伝えたのか。
知りたかったけど知りたくない。何が書いてあるのか不安で、開くことを躊躇った。迷った挙げ句、今、見ることにした。
恐る恐る開いたメモ、そこには意味不明な記号の羅列の走り書きがあった。
繋心へ、海宙より。
"1992*44444111"
"222211330005555522222444442*"
"333*444*44444#4*11333224444*333"
数字はケータイで打つこと!
「なんだこりゃ?」
訝しみながらも、時代遅れだと部員たちに言われたガラケーを開く。壊れたらスマホにしようとしているが、なかなか壊れない。
そのメモを見ながら1つ1つ数字を打ち込む。ようやく全て打ち終わって、全文を見た瞬間、視界が滲んだ。
「…な、んで……こんな…っ」
溢れた雫は頬を伝い、タイル張りの床にぽたりぽたりと落ちてゆく。人が大勢いるのにとか、そんなことはどうでもよかった。
「海宙…っう……海宙っ…く…」
さっきまで繋いでいた手を必死で握り締め、両手を胸に抱いた。温もりを忘れないように、温もりをなくさないように、と。
俺は肝心なことは何1つ言えなかった、伝えられなかった、言葉にできなかった。それは付き合っていた頃も、今も、変わらない。
それなのに、海宙はこんな俺を、想ってくれていた。何日も、何ヶ月も、何年も。
次に会えるのがいつか分からない。
それでも、言葉にしよう。
上手く言えないかもしれないけど、
自分の"言葉"でちゃんと伝えよう。
ずっと、好きだと。
車に乗る時、空を仰いだ。どこまでも広がる、青い世界。その中心に、真っ白な直線を飛行機が描いた。海宙が乗っているだろう飛行機に向け、叫ぶ。
「次会ったら、ちゃんと言うからなー!それまで目移りしないで待ってろよー!」
繋心こそ、浮気しないでよね、と。
空の向こう、海宙が笑った気がした。
END.