Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第29章 ずっと、君だけを。《烏養 繋心》
それからの3日は飛ぶように過ぎ、気が付けばカレンダーは23日を示していた。
朝早くから海宙の家に向かう。クルマを降り、玄関へと歩く。吐息は真っ白だ。チャイムを押すと、モコモコのコートを着込んだ海宙が出てきた。
『おはよ、繋心。今日はお願いします』
「おう、荷物はそんだけか?」
海宙は小さめのキャリーバッグしか持っていない。訊けば、他の荷物はさきに送ってあるとのことだった。
助手席に海宙が乗り、会話を交わしながら東北自動車道を南下する。
『ねぇ、繋心』
不意に、名前を呼ばれる。
「ん?」
『私ね、繋心のスパイク好きだったよ』
「…お、おう」
突然のことに反応が遅れる。それにしても、なんで、今なんだ?
『しょーよー見ててね、思い出したの。冬の朝とかにさ、早起きしてよく体育館に一番乗りして、それで練習したなぁ、って』
「あー、寒かったよなあれ」
『うん。でも、』
心は、あったかかったよ。
思わず助手席を向けば、頬をほんのり染めてはにかむ海宙。つられて俺も照れ臭くなって、顔が赤くなる。それを隠すのに運転に集中しようとする。が、心臓が喧しい。
『繋心』
「おう」
『あの子たちのこと、お願いね』
まるで母親のようなセリフに驚いて隣を見る。見て、少しだけ、後悔した。
本当に母親のようだった。
なにかを哀しむような、
手の届かないなにかを願うような、
それでいて、なにかを慈しむような。
そんな、切ない、表情をしていた。
たった少しの間で仲良くなって、すぐにお別れがやって来て。本当なら海宙は、もっとあいつらとバレーをしたかったのだろう。
「次、帰ってきたら、まず烏野に来いよ」
『うん、そうする。繋心にも会わなきゃ!』
三度海宙を見れば、先程のような雰囲気は跡形もなく、はつらつと笑う海宙がいた。