Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第29章 ずっと、君だけを。《烏養 繋心》
それから何度か海宙は部活に顔を出した。元々女子バレー部でセッターとして県内ではそこそこ有名だった海宙。部員たちともすぐ馴染み、練習に参加していた。
部員たちも海宙の丁寧なトスに感心していたし、セッターの菅原や影山にとっても良い刺激になったようだ。
海宙の参加できる最後の部活は20日だった。出発も近いので、今日で最後にするとのことだった。一通りアドバイスなどをした後に、海宙が言った。
『最後に質問、受けるよ?』
真っ先に手を挙げたのは、影山だった。
「海宙さんはなんでセッターに?」
影山の質問に海宙こう答えた。
『んー、なんでだろうね。私でも分かんないや。でもトスを上げるのは好きだったよ』
そうすか…とどこか残念そうな影山。海宙は少し考えた後にこう言った。
『ね、トビオ。自分のセットアップから得点になった時ってさ、すごい嬉しいじゃん?』
「はい!」
『私、あの感覚が好きだったのかな。それともう1つ。たぶん、スパイカーの一番近くにいたかったんだと思うな』
「スパイカーの、近く…」
トビオならしょーよーかな?と海宙が笑うと、影山は少し照れながらそうっすねとぎこちなく笑った。
それから海宙は続けた。
『私の頃、烏野バレーはやっぱり弱かったんだ。試合になれば負けるし、悔しかった。それでも、今になって思い出すのは、楽しかった何気ない部活のことなんだよね』
目を閉じ、宙を見上げ、なにかを脳裏に浮かべているような。そんな海宙。
『高校の3年、人生にしたら本当にあっという間。でも、その3年がぎゅっと詰まった良いものになると良いんじゃないかな。そのためにも、バレーをやってるみんなを全力で応援したいと思います!』
全国、行くからには勝ってよね!
そう言って、海宙は笑った。
帰り道、ふと思い出したのは、海宙のさっきの言葉だった。
海宙にとってのスパイカー。
それは、4番を背負っていた当時の相棒か。
はたまた、よく一緒に練習をしていた俺か。
その一言だけでは、判断できなかった。
車窓から見上げた冬の空、無数の星が眩いばかりに光っていた。