Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第27章 ☆両想いの彼らの事情《山口 忠》
「もう、キスしてる時の蒼井さんの表情とか、声が堪らなくてしょうがなくて」
堪えようとすればする程切なげになる呼吸とか、少し潤んだ瞳とか。全部が愛おしくて。
「夢中でして、蒼井さんのバックの落ちる音で我に返って、慌てて放してごめんって言って帰っちゃったんです」
はぁっとため息をまた吐いて、話し終えると、スガさんがうぅんと唸った。
「そっか…けど、それなら謝って話し合えば大丈夫なんじゃないか?」
うんうん、と日向や旭さんも顔を振る。俺もそう思った。明日の朝、謝ろうって、思って、寝たんだ。
「でも、それだけじゃないんです…」
「「まだなんかしたのかっ!?」」
「「いいから黙れ!」」
くわっと噛み付く2年2人を、例のごとく縁下さんと大地さんが叱る。
そう、この話しにはまだ続きがある。そしてここから先の方が、もっと重要な、それでいて大問題だった。
「それだけじゃないです…その夜に寝てたら夢に蒼井さんが出てきたんです……タオル一枚だけ、で…」
それには大人組もビックリする。
「…まだ早いからダメだって止めたけど、俺も男だから堪えられなくなって。それで蒼井さんに触れようとした所で目が覚めました…」
事があまりに重大というかなんというか。みんながみんな、言葉を失う。
「俺っ、最初は蒼井さんの笑顔を見るだけで幸せでした。彼女と仲良く一緒にいれるだけで満足してたのにっ…」
嬉しかったんだ。初めての告白、初めての両想いだったから。だから大切にしようと思ったのに。それなのに。
「俺、自分がこんなにも変態だと知らなかったんです!近くにいると蒼井さんのことっ、汚すんじゃないかって不安になって…」
大事にしたいと思えば思うほど、もう一人の俺は蒼井さんをめちゃくちゃにしたいって思うようで。
「だからっ避けてたのに…さっき蒼井さんに腕を掴まれた時、蒼井さんの体温とか、っ綺麗な唇を見て、夢の事を思い出して、それで振りほどいちゃって…っ」
そのせいで、蒼井さんを傷付けた…
いつの間にか頬を涙が伝う。情けない。そう思うのに、涙は止まってくれなくて。シンとした部室には、俺のずびずび鼻を啜る音が響いて。
そんな静寂を破ったのは、縁下さんだった。