Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第25章 三角幼馴染み《及川 徹&岩泉 一》
ハッと我に戻った瞬間、どっと後悔した。
あぁ、取り返しのつかないことをした、と。
目に飛び込んできたのは、驚きで目を真ん丸に見開いた海宙で。その目は少し細められ、それから潤んでいった。俺の怒鳴る声に、騒いでいたあいつらもシンとしてた。
『…あれ、ごめんね。目にゴミ入った』
「海宙…違う、今のは」
そう言って目をごしごしと擦る。そしていつもの笑顔…か?答えは否、違う。
『ううん、ハジメは悪くないよ。ごめんね』
「なぁ、海宙…」
懸命に笑おうとするその目からは、今にも雫が溢れそうで。
なぁ、笑おうとするなよ。
泣いてくれたら俺、その方が楽だ。
その方が、俺、お前を慰められる。
『なんでもない、なんでもないの。ハジメなら分かってくれるよね。だって…』
"友だちだもんね"
その言葉に、ぐさり、と。胸を抉られた。ぐしゃり、と心臓を握り潰されたような。息が詰まって、苦しい。
『っじゃあ、わたし、後輩のとこ行かなきゃだから。またねっ!』
声を掛ける前に消え、廊下を駆ける小さな背中。手を伸ばし、口を開く。
でも、何も出てこない。ただの、一言さえ。行き場の無くなった手は、重力に引かれてずるりと落ちた。
後には、海宙の姿の見えなくなった廊下を呆然と見詰める俺だけが残された。
「……ゃん、…わ…ん、岩ちゃん!」
「ッ!?」
聞こえた声に振り向くと、そこには及川。端整な顔を、不安気に歪ませている。
「何、どうしたの?海宙は?」
「悪い、ケンカした…」
「えぇ、このタイミングで!?」
「岩、それは無いべ」
大袈裟に驚く及川の隣で、花巻も同調する。
「だよな、どーすっべ…」
「とりま、謝ってこい。な?」
「おう。松川、サンキュな」
そう言い残し、体育館から飛び出す。体育館の裏から声が聞こえ、すぐに向かう。
「海宙ッ!…海宙……?」
うずくまって膝を抱える海宙の姿。ところどころ、鼻をすすったり嗚咽が聞こえる。必死になって声を押し殺すその姿に、留目を刺された。
ああ。
あんな風にしたのは、俺だ。
声を掛ける資格もない。
俺は来た道を引き返した。そして、この日を境に、俺と海宙の関係は、一変することとなる。