Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第23章 ★"10年"と彼女《花巻 貴大》
えーっ!?と抗議の声を上げながら、同僚の女が海宙に詰め寄る。
「ちょっとぉ、あんたのこと良いって言って狙ってる人、いっぱいいるのに。二次会行かないで抜けちゃうの?」
演技のような甘ったるい声。そんな女にでも、海宙は優しく笑いごめんと言った。
『久し振りに会ったから、もう少しだけお話ししていきたいの。あ、会費渡すね』
そう言うと、バッグからサイフを出し、千円札を3枚抜き取って渡した。
「んー、分かった。課長に行っておくね」
『ごめん、お願い。桃香ちゃんにも伝えてもらって良いかな?』
はぁい、と伸びた返事をして、及川に笑顔で手を振って、その女は去っていった。
「…とりま海宙も飲むか」
『うん。あの、今更なんですけどご一緒しても良いですか…?』
俺が言うと、おずおずと残りの3人の顔色を窺う。誰一人として異論を唱える者はいなかった。海宙はホッとしたように俺の隣にいそいそと座った。
その時、ふわりと髪が香った。前ならばそれを1房手にとってくんくんと匂いを嗅いだだろう。でも今は、そういう関係ではない。変わってしまった距離が、少し寂しかった。
思い出話をしたり、最近のことを話したり。つまみも酒もどんどん減っていった。
しばらくして、酒に強そうで弱い及川が撃沈した。幸いなことに、明日と明後日は練習が無いらしいので、二日酔いも問題無い。
問題なのは、コイツをどうするかだ。
「岩ぢゃあん、聞いてよぉ…」
「へーへー、聞いてるっつーの」
「ぐすっ、フラれたんだよぉ、彼女に。俺のことずっと好きって言ってたのにぃ…」
「あーめんどくせえ。松川、頼めるか?」
痺れを切らしたように岩泉が言う。松川は苦笑いしながら大丈夫だと告げた。
「悪い花巻、俺らはここで帰るわ。お前らはもう一軒くらい寄ってくのか?」
「あー、どうだべ…」
ちらりと海宙を見下ろすと、じぃっと訴えかけるような目をしていた。
『あの、あたし、何て言うか、その…』
「名残惜しい、んだよな?」
『~っ、そう、それ!』
ぱあっと顔を明るくする海宙。頭をよしよしと撫でたいのをぐっと堪え、岩泉に言った。
「っつうわけで、悪いけど及川頼むな」
おう、と2人の返事。会計を済ませて店を出て、俺らは別々の方向に向かった。