Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第20章 ★文学少女の恋愛論《二口 堅治》
そんなある日の部活の後、思いきって海宙ちゃんを引き留めてみた。
青根と紫乃ちゃんにバイバイと告げ、俺の隣に走り寄ってくる海宙ちゃん。ふわ、とシャンプーの良い匂いと女子特有の甘い香りがした。
「ねぇ海宙ちゃん」
『はい?』
「好きな人って、いないの?」
『い、いいえ。今は特には…』
どくん、と心臓が跳ねる。今、フリー。なら俺にもチャンスはある。
女の子に告白するのに、こうも緊張したことが今までにあっただろうか。ともかく俺の緊張は、相手のマッチポイントの時よりも、エロ本が親に見付かった時よりも高かった。
どぎまぎしながら、俺はゆっくり、はっきりと言った。
「俺と、付き合ってみない…?」
そんなに大きな声ではないのに、誰もいないがらんとした体育館には響いて。しばらくの静寂が2人を包む。
そして、それを破ったのは、海宙ちゃんの一言だった。
『あの、二口先輩』
「お、おう…?」
『私は、今まで異性とお付き合いしたことがありません。それどころか、好きな人ができたこともありません。男子とろくに話したこともありません』
でも、と彼女は言う。
『二口先輩といるのは、居心地が好いです。話すだけで、心が弾みます。以前、とある小説でこの手のお話を読んだことがあります。2人の男女の"恋"の話でした』
そこで一旦区切り、すぅと息を吸ってからまた話を始めた。
『そして、同じように、私の今のこの感情に名前を付けるのなら…』
それは、"恋"、と言うのでしょうか?
その時の彼女の表情、雰囲気、態度。その全てを俺は、忘れることはないだろう。