Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第16章 勘違い+片想いの結末《山口 忠》
【蒼井 side】
カポーン…なんて、ししおどしの音は聞こえない。だってここは、旅館じゃないから。森然高校のお風呂、なんだけど、混浴してる相手がおかしい。
さして広くない浴槽の両端で、私と山口君はお湯につかっていた。勿論、体にはバスタオルを巻いて。
「なんかゴメンね…」
『元はといえば、私が山口君を買い物に付き合わせちゃったからで…』
ホカホカとした、白い湯気が漂う。なんかもう、スゴいシチュエーションだよね。このまま湯気になって飛んでいっても良いくらい。
なんとなくお互いに気不味くて、無言。沈黙に耐えかねたのか、山口君が口を開いた。
「そ、そういえばさぁ、朝ご飯食べてる時に日向と音駒の灰羽がリスみたいだったよ」
『あ、私も見たかも。ほっぺが膨らんでて』
思い出したのか、私と山口君が吹き出したのはほぼ同時だった。それから、顔を見合わせて、笑った。緊張感も無くなり、学校でのことなど、他愛も無い話をする。すると、不意に山口君が黙り込んだ。
『山口君…?』
「あのさ、蒼井さんはツッキーのこと、好きなんだよね」
『………え…』
「俺で良ければ、その、協力するから…」
ぐわぁん、と頭を鈍器で殴られたような気がした。頭の中で、鐘がぐわんぐわん鳴り響いている。
混乱する中、気が付けば私は思っても無いことを口にしていた。
『う、ん。えへへ、そうなんだ。あの、山口君は仁花ちゃ…谷地さんがが好きなんだよね。私も手伝えることあったら言ってね』
「うん、ありがと…」
作り笑いと共に吐き出した言葉。
ずきん、ずきん。
胸が、痛いよ。
苦しいよ。
また沈黙が漂う。それはさっきのものよりも重たく、私たちにのしかかかる。居たたまれなくなって、私は湯船から、上がろうとした。
『じゃ、じゃあ、私先にあが…』
ぐにゃり、視界が歪んだ。あれ、そういえば体が火照って熱いような。
「蒼井さん、大丈夫!?」
バシャリと湯船に倒れる私を、山口君が受け止めてくれた。好きな人の体温に、どくんと脈打つ私の鼓動。
『…山口く、好き、だよ…』
ぽつりと呟いた言葉は、果たして彼に届いたのか。それを知る前に、私の意識は闇の中へと落ちていった。