Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第14章 ★宵の月光《及川 徹》
ゆっくりと近付くと、まず最初に彼女が気付いた。その純粋な笑顔は、俺に向けられている。それだけのことが、スゴく嬉しい。
『あ、及川さぁん、飲んでますかぁ?っていうかぁ、及川さんの奢りですからねぇ?』
「うん。あ、ねぇ、俺も混ざっていい?」
途端に不機嫌そうになるのは国見と影山。こいつら、先輩に向かって…国見舌打ちした!
「及川さん、ここどうぞ!」
自分の隣をポムポム叩く金田一。でもゴメンな、俺が座りたいのはそこじゃないんだ。
「ゴメンね金田一。でも俺こっちだから」
『わぁ、及川さぁん!』
彼女の右は影山、だが左は何もない。そこに座り、追加でビールを頼んだ。
「…なんで及川さん来たんスか」
眉間にシワが寄り、明らかに不快そうな影山。まだまだこいつもガキだなぁ。
「まぁまぁ、そう言いなさんな」
余裕綽々を装いつつ、実は焦ってる。隣の海宙ちゃんは、俺に対して珍しく笑ってるし。しかもなんか、居酒屋なのにいい匂いがするし。と思ったら、海宙ちゃんからだし。
ムダにドキドキしながら、懐かしい思い出話をしていると、海宙ちゃんはこっくりこっくりと船をこぎだした。そろそろ、だな。
「あ、海宙ちゃん帰ろっか?」
『んぅ~及川さん、眠いぃ…』
「ハイハイ。送ってくから、ね?岩ちゃーん、ゴメン俺抜けるわ。海宙ちゃん送るねー」
奥からは、おうと声が聞こえた。彼女の荷物を持ち、支えながら立ち上がると、影山。
「及川さん、俺やりましょうか?」
「あー…いいよ。せっかくの歓迎会なんだし、影山は楽しんでなよ」
「いや、でも俺…」
「えーっと、これ、会費。岩ちゃんに渡しておいてね。じゃ、帰りまーす」
半ば強引に数枚の紙幣を影山に押し付ける。野口英世が、何枚か。困惑する影山を置いて、俺はカラカラとドアを開けた。彼女の手をとり、夜の街へと踏み出す。
大人気なかったな。
でも、それが恋愛だ。
ただ見ているだけじゃ、ダメなんだ。
「駅、どこなの?」
『ん…帰りたくない…一人、イヤですぅ…』
なん、ですと!?
帰りたくない!?
彼女の口から出た言葉に、俺はビックリ仰天。どうか、繋いだ手から緊張が伝わりませんように。そう願いながら、呟いた。
「…じゃ、うち来る?」