Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第13章 今を生きて《月島 蛍》
病室に駆け込むと、ヒューヒュー、ゼーゼーと苦しそうに息をする彼女がいた。酸素マスクを着け、点滴やたくさんのコードが体を這っている。
「お嬢様っ!」
『蛍…』
弱く微笑むと、彼女は嬉しそうに僕の名前を呼んだ。なんでそんなに、嬉しそうなんだ。
『け、い…ごほっ、あのね…わ、たし…』
「無理するな、喋らなくて良いから!」
彼女の頬を、涙が伝う。真珠のように輝くその粒は、シーツに吸い込まれる。僕の目からも、涙が溢れた。
『ずっと…す、き、だったの…っげほ…』
「お嬢様…」
ヒューヒューと息をしながらも、懸命に伝えようとするその姿に、胸が震える。
『だ、からね、名前…呼んで…?最後くらい…わがまま、許し、て?』
「そんなの…っ!」
幾らでもする。
君が望むことなら、
なんだってする。
だから、最後なんて言うなよ。
「海宙、海宙海宙…っ」
『うれし…けほ、あ、りがと…』
彼女の髪をそっと撫でると、目を細めて気持ち良さそうにした。それも束の間、げぼっと咳き込む彼女。マスクの掛かる口元が鮮血で赤に染まった。
「海宙っ!?」
『げほっ、がはっ、け、い…ごほ…』
ピーピーピーピーとアラーム音がけたたましく鳴り響く。彼女に繋がる心電図モニターが異常を報せていた。呼吸数の急増、それはつまりいよいよ肺が悲鳴を上げている。
両目からぼろぼろと涙を溢し、僕は逃げ出すように彼女にすがり付いた。
「しっかりしろよ、庭の花どうすんだよ!」
頭が真っ白になって、言葉に詰まる。なんでこんなことしか言えないんだ。彼女は弱々しく笑い、荒い息の合間に呟いた。
『けい、なら…じょ、ずに…育て…がはっ』
「海宙頼むから、死ぬなよ…っ!」
『も、疲れ…ちゃった…けい…』
彼女の手を握ると微弱な力で握り返される。
『すき…だよ、けい…』
「僕も好きだ、好きだから。だから、まだ逝くなよ…海宙っ!」
『よか、った…けいに、すきって、言っ、てもらえ…た…ありが、と…』
海宙はヒュッ…と息を吸い込んだ。
それが最期だった―――