Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第13章 今を生きて《月島 蛍》
【蒼井 side】
がらっ、バタン!と足音荒く蛍は出ていってしまった。しん…と静かに鳴る。
『蛍…』
呟く言葉は宙に消える。
あんな顔をしてほしかったんじゃない。
怒った顔が見たいんじゃない。
心配しないでほしいのに。
時間がないことくらい分かってる。
少ない時間、
蛍と笑っていたいのに。
『どうしよう…』
涙が零れそうになって、慌てて目元をごしごしとこすった。ふと、テーブルに目を遣ると、一冊の本。時が未来に進む彼と、時が過去に戻ってしまう彼女の、甘く切ない物語。
本の中の彼らは、自分たちの置かれた状況でも諦めず、一生消えることの無い想い出を紡いでいく。別れの時が来ても、彼らは最後まで愛し合っていた。
別に、私たちが付き合ってるわけじゃない。
それでも思ってしまう。
どうして、あんな風にできないんだろう。
どうして、上手くできないんだろう。
蛍といると、弱い自分が出てしまいそうになる。病気になってから、それがずっと大きくなった。でも、蛍の前では泣きたくない。いつもの私でいたいから、無理をする。それで怒らせて、空回り。
『もう、イヤだなぁ…』
こんな自分。
不意に息が詰まり、げほっと咳き込む。掌には赤い血液。どろどろした、私の気持ちみたいな、そんなような。
最近は吐血が頻度を増してる。蛍がいる時にはならなくても、たまに血を吐く。
時間が欲しい。
神様お願い、あと少しでいいの。
彼といられる、時間をください。
好きかと訊かれれば、きっとyesと答える。
いつからか分からないけど、好きだった。
あまのじゃくで意地っ張りで毒舌で。
それでもやっぱり、君が好き。
気付くのが、遅すぎたの。
『どうやって伝えよう…』
この気持ちを、この想いを。伝えるだけの時間は、残されていない。それなら、言葉を文字にしよう。文才はないけど、伝わるようにありったけの想いを込めて、手紙に。
「蒼井さーん、入りますよ?」
担当の看護師さんが様子見に来た。
『あの、お願いなんですけど…』
そして私は、彼女に1つ、お願いをした。