Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第13章 今を生きて《月島 蛍》
帰る時、廊下を歩く先生を見付けた。僕の姿を認めると、先生は苦い顔をした。
「あぁ、蒼井さんの…」
「どうも。あの、彼女の状態は…」
「ここで話すのもなんですから…」
僕にロビーにいるよう伝えると、先生は診察室にからカルテを取ってきた。そして、僕の隣にどっこらしょ、と腰掛けた。
パラパラとカルテを捲りながら、先生は眉間のシワを深くした。
「実は、そんなに芳しくありません。思っていたよりもがんの進行が早くて…」
つい一昨日に撮ったものらしい写真を見せてくれた。がんが広がっている部分がどす黒く写っている。少し前のものと比べると、明らかに悪化しているのが分かった。
どくんどくんと心臓が跳ねる。
「残念ですが、春までもつか、どうか…」
春まで
もつか。
そんなに、悪かったのか、彼女の容態は。
「そう、ですか…」
蚊の鳴くような声で呟いた僕の肩を、先生はとんとんと叩いた。何も言わなかった。それが先生なりの気遣いだった。
このあと診察があるから、と先生は白衣を翻して去っていった。その後ろ姿をぼーっと眺めていた。
春まで、もたないのか…
残された時間は、あと僅か。
こんなちっぽけな僕は、
彼女に何をあげられるだろう?
何をできるだろう?
自問するも、答えは出なかった。