Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第13章 今を生きて《月島 蛍》
それから数ヵ月。その年の冬は例年になく寒い日が続き、今日も白い雪がちらついている。カサとか持っていった方が良いかな。
「行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
料理長のいってらっしゃいは、くすぐったくてまだ馴れない。首に巻いたのは、お嬢様がクリスマスにくれたマフラー。
黒と白のボーダーのそれは、僕らしかった。ついこの間買った手袋をし、カサを差しながら、病院に向かった。
到着する頃にはすっかり本降りになっていて、院内はとても暖かかった。
エレベーターを待つのがもどかしくて、階段を駆け登る。305号室の扉を開けると、そこに彼女はいなかった。
ヒヤリとした汗が背中を伝う。
どこに行ったんだ。
まさか、緊急手術とか…
最悪の予想が脳裏を過る。
僕の思考回路が永遠に続くループに入りそうになった時、後ろからのんきな声がした。
『あれ~、蛍じゃん。そんなとこ突っ立ってどうしたの?』
「お、じょうさま…」
院内用のピンク色のパジャマに身を包んだお嬢様。その姿をみた瞬間、目から涙が零れた。
『え、蛍、泣いてる!?』
「バカ、泣いてないし…ズッ…」
『いや、泣いてるから。鼻すすってるから』
「違うし。そんなんじゃないから…」
良かった。
いなくなったのかと、思った。
『蛍…』
呟くと、彼女は僕に抱き付いた。一回りも二回りも小さくなったその体を、僕もぎゅうっ
と抱きしめ返した。
「お嬢様…どこにも、行かないでよね…」
『ずっと、蛍の隣にいるよ…』
強く、強く抱きしめたその体は、力を入れすぎればぽっきりと折れてしまいそうで。
それでも、離すまいと抱きしめた。
2人とも、なんとなく、分かってた。
なんとなく、予感してた。
2人でいられる時間はもう、
そんなに残ってない。
カウントダウンは、もう始まっているんだ。