Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第13章 今を生きて《月島 蛍》
あれから半年が経った。春風に、蝶や鳥が盛んに空を飛ぶ。花がほころび、暖かな風がそよぐ。そんな景色がいつの間にか移り変わっていた。
空を覆うのは筋条の雲。新緑だった草木の色は、すっかり枯れてしまった。銀杏や紅葉の赤や黄色が彩る。
「っくしゅん…はぁ、寒い…」
手を擦り合わせると、指先が赤くなっていた。そろそろ手袋が必要かもしれない。そんなことを思いながら、ポケットに手を突っ込む。そして、病院へと歩き出した。
歩く度にかさり、かさりと落ち葉の音。脳裏に浮かぶのは、彼女の乾いた咳の音。
ああ、早く会いたい。
今日も元気でいるだろうか?
僕は足早になって病院へ向かった。
彼女の病室に入ると、難しそうな顔をしていた。その目線の先には、テーブルに広げられたジグソーパズル。
『蛍、今日は早いんだね!』
にかりと笑って言うお嬢様。コートをハンガーに掛けながら、理由を言った。
「今日はバイトが早く終わったからね」
途中で買ってきたケーキの箱を見せると、途端に顔を輝かせた。先生に許可は貰った。
ふたを開けば甘い香り。イチゴの載ったショートケーキと、クッキーのトッピングされたチーズケーキ。
「お嬢様はどっち食べるの?」
『ん~…今日はこっちの気分かな』
そう言って指差したのはチーズケーキ。それをお皿に取り分け、自分の分も取った。
『いっただっきまーす!』
パクリと頬張る彼女。んんん~っ!と甘味に顔をほころばせる。子供みたいだ。
「ホラ、口にクリーム付いてるから…」
『えっウソ、どこ!?』
「ここ…」
狼狽える彼女のあごを掴み、親指で口の端に付いたクリームをそっと拭った。そして、それをペロリと舌で舐める。うん、甘いね。
『けけけけけ蛍っ!?///』
「ゴチソウサマ♪」
ニヤリと笑えば、彼女の右手が飛んできた。ぺちりと叩かれるけど、ひ弱な攻撃じゃ痛くない。伸ばした右手を掴まえると、前よりも細くなっていた。
「ねぇ、最近ちゃんと食べてる?」
『あー、うん、まぁね…』
ウソだ。
ウソを吐くときのクセ、
目を左に逸らすヤツ。
全体的に細い。元々やせ形だが、更に細い。病魔は確実に彼女を蝕んでいた。