Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第13章 今を生きて《月島 蛍》
それからは、入院生活が続いた。抗がん剤も投与しなければならず、もう邸に戻ることは不可能に近いと。担当の先生は言った。
「どうしても、ですか…」
「蒼井さんは喘息もあり、体力があまりありません。ですから無理をすると進行が早まる恐れがあります」
彼女を生かしたいのなら、家に帰ることはおすすめしません。
と、先生は言った。
スツールはら立ち上がると、僕は無言で礼をし、診察室を出た。院内は物音がほとんどせず、静寂が包んでいた。歩く度にコツ、コツ、と靴の音が鳴る。その反響する音を、やけに大きく感じた。
がらっとドアを開けると、お嬢様はベッドの上で体を起こしていた。憂いを帯びた表情で、静かに窓の外を眺めている。
「お嬢様」
『あ、蛍、来てくれたの?』
「着替えや本とか持ってきたから」
備え付けの棚に、持ってきた袋から着替えやら何やらを詰め込んだ。そして数冊の本。お嬢様のお気に入りを少しだけ。
「花、買ってきたから飾っとくね」
『わぁ、華やか。ありがとう、蛍…』
花瓶に花を生けながら彼女から目を逸らした。こんなのただの、照れ隠しだ。
紫のフリージアに白くて小さなカスミソウ、それと桃色のガーベラ。
僕の動作を見詰め、彼女は微笑んだ。その笑顔があまりにも儚くて、幻のようで。空気に溶けて消えてしまいそうで。
たまらなくなって、抱きしめた。
『け、蛍っ…///』
「うるさい。ちょっと、黙ってて…///」
いつの間に、こんなに痩せたのか。すっかり細くなり、前にも増して華奢になったその体を、いつまでも抱きしめた。
どこへも、行ってほしくなくて。
ずっと、このままでいたくて。
神様、貴方は残酷だ。
頼むから、僕から彼女を奪わないで。
僕から彼女を奪ったら、何も残らない。
脱け殻しか、残らない。
どうして、僕じゃなく彼女を選んだ?
運命とは、時に残酷だ。