Volleyball Boys 《ハイキュー!!》
第13章 今を生きて《月島 蛍》
【月島 side】
邸までの道のりを、ただひたすらに下を向いて歩く。歩いて帰るには遠い距離だが、今は頭を整理したかった。
海宙お嬢様が、がん。
余命は、あと1年あるかどうか。
僕は、今まで何をしていた?
何を見ていた?
あんなに傍にいたのに、ずっと隣にいたのに。異変の1つや2つ、簡単に見付けられたハズだ。
風がやけに長引いていた。乾いたような咳を時々していた。このところ食欲が落ちていた。
何も、気付けなかった。
「…クソッ…!」
ガンッと、近くの電柱を右の拳で殴る。じわり、と赤い血が滲んだ。こんなの、どうってことない。お嬢様の方が、痛いに決まってる。
僕は執事失格だ。
主の体調が悪いのに気付けなかった。
自責の念に駆られ、ひたすらに自分を責めた。責めないでと言われたが、そんなことできるわけがない。僕のせいであんな体になってしまったんだ。
邸に帰ると、料理長が食事を用意してくれていた。
「おかえりなさい、蛍さん」
「ただいま…」
「お嬢様のお具合は…?」
口に、出したくない。
本当にそうなってしまいそうで。
その事実を、信じたくなくて。
「…肺がん。全身に転移してるって。余命は1年あるか…」
「そん、な…っ!」
がくりと項垂れる料理長。その小さく丸まった背中を、おぼつかない手付きで撫でた。
以前、お嬢様が言った。
"会社もなーい、親もいなーい。なんにもなくなっちゃった。ねぇ、私の存在意義ってなんだろうね?"
そんなの、簡単なことだ。
そこにいてくれれば、
生きてくれさえいれば、良かった。
枯れたハズの涙が、溢れた。