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私は醒めない夢を見る

第1章 日常


私が通されたのは生物実験室だった。
「他の先生達は?」
「まだ来てませんし、来たとしても職員室でしょうね」
そんなもんなのか、と思っているとゴム手袋を渡された。
「私が袋を人数分置くので、皆川さんはそれを傷つけないように置いていってください」
ビニール袋の中身は、豚か牛の目玉だった。ああそういえば今日の実験は豚の目の解剖だったっけ。
「…って、よくこの作業を女子にやらせようと思いましたね先生!」
「皆川さんは他の実験でも平然としていたので大丈夫かと。今中身を見ても叫んだりしなかったでしょう?」
「そうですけど…」
「ならさっさと片付けましょうか」
松野先生は眩しいくらいの笑顔を見せる。
なんで私、朝からこんなこと……。
先生が置いた袋の中に目を入れていく。ゴム手袋越しの感触は柔らかくて、あんまり強く握りすぎると潰してしまいそうだった。私が作業を終える頃になって、先生はこっちに戻ってきた。
「ありがとうございます。ゴム手袋は流しに置いてくれればいいのでこっちに来てください」
隣の生物準備室に入ろうとしたとき何故か、スマホの入っている右ポケットが温かくなった。見れば、当麻君からもらったキーホルダーの石がかすかに点滅していた。光るキーホルダーだったのかな?
「これなんですよ、処分に困っているもの」
先生が背を向けたまま紙袋を取り出す。机の上に広げられたのは、色とりどりのお菓子だった。
「甘いものは好きじゃないと常々言ってるんですが、授業内容共々あまり生徒の皆さんは聞いてくれないようで」
「ビターチョコが多いですよ」
「好きではない、というのはそういう意味ではないのですがね。ともかく、他の先生方に配るのも限度があるので差し上げますよ。お好きなだけ取っていってください」
その言葉に、私はブンブンと首を振った。
「これ先生のために贈られたものですよ!」
「…そうですね。ですが、興味のカケラもない人からもらう好意ほど、面倒なものはないんですよ」
先生はどこか遠くを見つめる。モテる人にはモテる人の苦悩があるのか…。なんとも贅沢な話だ。
「ああでも、皆川さんは興味深い存在ですから、貴女からの贈り物なら大歓迎ですよ」
「なんですかそれ…」
「深い意味はありませんよ」
先生はチョコレートの包みを剥がし、そのうち一つを私に差し出す。私が受け取る前に、そのチョコレートは口に押し込められた。
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