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私は醒めない夢を見る

第1章 日常


「っ!?」
分かりやすいほどビクつくと、松野先生が静かにと口に人差し指を押し当てジェスチャー。
どうやら先生は、教室のドアにもたれかかっていたようだ。どうりで居ないと思ったわけだ。というか、十分間もここに居たの!?
「せ、先生こんなところで何を…?見回りですか!?」
「そうではないことくらい、分かっているんでしょう?どうせなら入って来ても良かったんですよ?」
「ば、バレてたんですか…」
松野先生は黙って窓際の席を指差す。内海さんの席だ。開いたままの手鏡に、小さく私と松野先生が映っている。あれなら廊下の様子も分かるよねそりゃ…。
「それにしても立ち聞きとは…あまり関心しない趣味ですね」
「ち、違うんです! 私はただ忘れ物を取りに来ただけです! せめて隣の教室でやってくれれば良かったのに!」
必死に言い訳をする私を見て、松野先生はクツクツと笑い出した。
「ごめんなさい、少しからかっただけです」
松野先生はそう言って、少しだけ私に顔を近付ける。
「でも、このことは秘密にしてくださいね? こういうのは噂になると厄介ですから」
「そんなことしませんって…」
正直、先生の目が見れない。たぶんまた授業中のあの目になっているから。
「もし漏らしたのなら…」
「な、なんですか?」
「生物の単位は無いと思ってくださいね」
「!?」
私の顔を覗き込み、松野先生はにっこりと笑った。
「いいですか、秘密ですよ?」
目が笑ってないです、先生。
「ここで見回りも終わりですし、皆川さんも早く下校してください」
「やっぱり見回りだったんですか」
「はい。見回り中に捕まってしまったせいでこの教室に」
私は引き出しから数学の課題を取り出し、バックに入れた。一応他にも忘れ物が無いか確認をしていると、松野先生が目の前まで来る。
「そうそう、ついでにこれをどうぞ」
先生が差し出したのは、綺麗な包み紙にくるまれた飴だった。
「美味しそうですね」
「とある生徒さんからもらったのですが、甘いものはあまり好きではないので。どうぞ食べてみてください」
そう言われ何の気なしに飴を口に入れる。甘い、ストロベリーの味が口の中に広がった。
「食べましたね」
「えっ?」
「約束はちゃんと守ってください。それじゃあ、僕はこれで」
何? 契約ってこと? 飴一粒で?
私が唖然としている間に、先生の足音は遠ざかって行った。
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